KAC2023 禍事喰いの一族(まがごとぐいのいちぞく)

かざみ まゆみ

禍事喰いの一族

 俺がその一族を知ったのは、まだ祖母の家に預けられていた高校生の頃だ。


 とあるビルの裏路地だった。

 そこは一見さんでは辿り着けない、怪しげな占い師や呪術師が軒を連ねる場所だった。


 俺はインチキ占い師である、祖母の付き添いとしてそこにいた。

 向かいに店を構えたその一族の、一挙手一投足を、俺は全て見ていた。


 その店の看板にはこう書いてあった。


「あなたの不幸を引き受けます」


 彼らは客が来ると、日本語とも分からぬ祝詞を上げ、客の前で手にした三方に向かい吐瀉していた。

 その様子を覗き見る俺は、眼の前で吐かれた客と同じぐらい顔をしかめた。


 祝詞を上げていた一人が、三方に転がりでたパチンコ玉ぐらいの石を摘み上げ、客に見せると祭壇へと並べた。


 そこには大小様々な大きさの石が並んでいた。

 客は彼らの説明に頷くと、料金を支払い嬉々として店を出ていった。


 それからも客が来るたびに同じ事を繰り返した。

 中にはピンポン玉位の石を吐き出すときがあり、俺はトリックを見破ろうと凝視していたが、一度たりとも暴く事は出来なかった。


「ノチェや、彼らは禍事まがごと喰いの一族じゃよ。人前に出てくるのも珍しい一族さ」

「禍事喰い?」

「あぁ、自らを形代とし、人の不幸や呪いを引受けては、報酬得て生計を立てとる一族の末裔じゃよ」


 ――んな、馬鹿な。ただでさえ奇天烈な事をやっているのに、人の不幸を引き受けるだと? そんな奇特な人間がいるもんか……。


「信じるも信じないもお前次第じゃよ。それ、儂らはお得意様の屋敷に移動するから、片付けを手伝っておくれ」


 その後も、件の路地裏で度々その一族を見かける事があったが、俺が大学進学し、祖母の元を離れたのを期に記憶から除外されていった。


 ――それが、こんな所で出会うなんて思いもしなかった。


 その日、俺はアキバにあるパチンコ店からの依頼で一人の男を尾行していた。

 その男は連日依頼主のパチンコ店に現れ、連戦連勝で一日たりとも負けたことが無いという話であった。


 いや、少し語弊がある。

 元々は負けが込んでいたギャンブル中毒に近い男だったのが、ある時から急に勝ち続けるようになった。


 店側はイカサマを疑い、あらゆる手を使ったのだが一向に証拠を見付けられず、とうとう探偵にまで依頼をするハメになったというのが事の経緯だ。


 男を尾行していくと、アキバの隣町にあるマンションへと入っていった。

 幸い、オートロックマンションでは無く、テナントや事務所も入る古めかしい建物だった。


 男は2階にある部屋へと入った。俺はすかさずポストを確認すると「ギャンブル勝たせ屋」と書いてあった。


 ――ギャンブル勝たせ屋?


 男がその部屋から出たのを見計らって、俺は意を決してインターホンを押した。

 インターホン越しに喉が枯れた様な男の低い声が聞こえた。


「ここに来れば、ギャンブルで勝てるようになるってのは本当か?」


 俺の問いに、男は客なら入ってこいと答えた。


 慎重にドアを開けると、正面に見覚えのある祭壇と、大小様々な石が並んでいた。

 その祭壇の前に胡座をかいて座る中年男性が一人。

 男が着ている袴のような着物も、あの時の一族と同じものだった。


「あんた、もしかして禍事まがごと喰いの一族か?」


 男は僅かに眉を寄せると不敵な笑みを浮かべた。


「そんな古い名前で呼ぶんじゃねーよ。オレはギャンブル勝たせ屋、人呼んでアンラッキー7《セブン》さ」


 それが、おかしな男・アンラッキー7との出会いだった。

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KAC2023 禍事喰いの一族(まがごとぐいのいちぞく) かざみ まゆみ @srveleta

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