ラッキーボーイ

くにすらのに

ラッキーボーイ

 世間では7という数字がもてはやされている。何がラッキー7だ。俺は000とか999とかの方が断然好きだね。7なんて中途半端だ。


「おっはよー!」


 中学生にもなって元気に背中に飛びつくな。何度言っても聞かないので俺はもう黙ることにした。大人は子供のすることを大目に見るものだ。


「あれ? 元気ない? 可愛い幼馴染が登場したのに?」


「いいか田中さん? 自分で自分を可愛いと言う女はろくなやつじゃない。そういうことは黙っておくことで良い女になるんだ」


「なるほど。ミステリアスなお姉さんだね。さっちゃんはそういう人がタイプなんだ」


「その呼び方もやめろ! 恥ずかしい。あと重い」


 何度言っても聞かない幼馴染に対しても何度でも抵抗することはある。咲夜だからさっちゃん。こんなあだ名が許されるのはせいぜい小学生までだ。中学生になったんだから普通に苗字で呼んでほしい。


「女の子に重いとか言っちゃダメなんだよー」


「中学生が中学生を背負って歩くのは無理だろ。対格差がないんだから」


 小さい頃は俺の方が大きかったのに成長期の違いで今はほぼ同じサイズになっている。ここから数年掛けて俺の方がデカくなるんだからその時を振るえて待て。


「はっ! わたしはミステリアスなお姉さんになるんだった。うっふ~ん」


「変な声を出す前に降りろ。ミステリアスなお姉さんは中学生におんぶされたりしない」


「なるほど。勉強になったよさっちゃん」


 幼馴染がどいたことで教科書を入れたリュックが軽く感じるくらいの解放感があった。もしこいつと俺の間にリュックがなかったら……。


 いつまでも小学生気分が抜けない幼馴染をどう注意すべきか考えながら登校しているとクラスメイトに絡まれてしまった。


「あっ! また田中とイチャイチャしてるー! 結婚式呼んでくれよな」


「マージでうらやましいー!!」


「もうキスはしたんですかー?」


 ああ、鬱陶しい。俺達は夫婦じゃないし付き合ってもない。ただ幼馴染がずっと同じ感覚で接して来るだけだ。女子の方が精神年齢が高いと一般的には言われているのにこいつはいつまでも子供のまま。

 そのおかげで俺が一足先に大人の対応を身に付けているからその点だけは感謝してる。


「えへへへ。わたし達、結婚するんだって」


「周りが勝手に言ってるだけだろ。気にするな」


「またまた~。さっちゃん顔赤いよ?」


「そんなわ、けっ!」


 無自覚に赤面していたことを指摘されて動揺してしまった。何もないところでつまずくなんてお年寄りかあざといアイドルくらいだ。いくら大人の対応を身に付けていても体はまだ若々しい中学生だしましてやアイドルでもない。


 もつれた足でバランスを取ることは不可能で、あとは重力に身を任せて倒れるだけ。その先にあったのは……。


「さ、さっちゃん。いくらわたしでも急に……それは……」


「ち、違うんだ。いや、その前にごめん、でも誤解で。転んだだけで」


 男子とは明らかに違う膨らみに顔面から突っ込んだおかげでケガをせずに済んだ。世間ではラッキースケベと言うのだろう。精神年齢は変わらないくせに体はちゃんと成長していることを否が応でも実感させられてしまった。


 あの時と同じではいられない。それなのにこいつは……奈々は変わらずに接してくれている。

 俺が注意しようが、周りが夫婦とはやし立てようがお構いなしだ。


 奈々の方がよっぽど大人だ。周囲に流されず自分を貫き通している。そんな姿がまぶしくて、羨ましくて、つい塩対応をしてしまう。俺はまだまだ子供だ。


「朝からおっぱいダイブ! さすがっす先輩!」


「夫婦はやることがちげ~」


「スマホで撮ればよかった~。クラス中に拡散できたのに~」


 証拠画像は残らなかったものの目撃者が数名。クラス内の影響力も大きいから話は圧倒間に広がるだろう。


「もう! さっちゃんのエッチ」


「不可抗力だ。そもそも奈々が……」


「えへへへ。奈々って呼んでくれた。前みたいに」


「ち、ちがっ! お前が子供っぽいから当時のことを思い出してだな」


 何がラッキー7だ。僕にとっては不幸の数字にしか思えない。奈々のせいで苦労が絶えない中学生活を送ってるんだから。

 

こんな不幸を背負えるのは俺くらいのものだ。だから、この子供っぽい幼馴染に付き合ってやってる。

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