呼ばれた男
如月姫蝶
呼ばれた男
そうとも、俺ぁ山育ちさ。七年前までは、故郷の村を飛び出す気なんて無かった。
山ん中を歩いてる時に、不意に後ろから名前を呼ばれることがある。だけど絶対に返事しちゃいけねえなんて、古い言い伝えがあるんだ。うっかり返事しちまうと、どこか恐ろしい場所に連れ去られて、二度とは戻れないんだとさ。
そもそも、山ん中で人間に呼び掛けてくんのは、山の妖怪なんだと。
俺は、この七年間、本名なんて使わずに生きてきた。そうとも。あんたらのことを山の妖怪より恐ろしいなんて思って、逃げ回ってたからな。
あんたらも、何もあんなタイミングで声を掛けてくることないだろうが。パチンコ屋で、目の前に7が三つ並んで、浮かれ騒いでる
は? 呼んだのはあんただって? いや、あれは絶対に、熊みてえな大男の声じゃあなかったぜ。俺が、七年前に、酔った勢いで死なせちまった山の神の声にそっくりだったぞ!
は? そっちの若い兄ちゃんは、いい大学出てそうなのに知らねえのか? 山の神ってえのは古女房のことだよ。下手すりゃあ、山の妖怪より恐ろしいかもな。
なあ、刑事さんたち、俺の山の神は、実は殺されても死んでなかったってことだろ? そんで、パチンコ屋で、俺を捕まえるために、あんたらに協力したんだろ?
あいつは、山奥の村には珍しい金髪美女で、英語の先生だったんだよ。都会の暮らしに疲れたなんて言ってたが、あいつに束縛されるのも、最初は楽しかったぜ……
なあ、実はこうしてる今だって、俺の耳には、あいつの声が聞こえてくるんだ。わかったぞ! この取調べ室には何か仕掛けがあって、やっぱりあいつが協力してやがるんだな!?
ハロー! アイ アム メリーサン……
アイ アム ビハインド ユー ナウ アンド フォーエバー……
呼ばれた男 如月姫蝶 @k-kiss
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