subliminal

雨月 史

 subliminal 7の滝壺

「私、この国の恐ろしい計画に気がついてしまったのよ。」


とルポライターの百合子が言った。


「は?お前何いってんの?」


「あなたは見ている?『月と鼈』」


「……?あの連ドラか?」


「そう……。あれ…スロー再生した事ある?」



「はー何の為に?」



。。。。。



少し白髪混じりの整った髪型の真面目そうな男性アナウンサーが眼鏡の位置を直しながら辛辣な顔つきでニュースを読み上げる。


「次のニュースです。昨年の暮れから起きている60歳以上の人の失踪事件ですが、先日でついに500人もの失踪者が出ている事がわなりました。警察はなんらかの共通点がないか、慎重に調べをすすめていますが、今の所まだ解決に繋がる糸口は何も見えていません……。」


このニュースはまるで他人事のように思えなかった?なぜならば謎の失踪事件の始まりは、僕の隣の家に住むお爺さんとお婆さんだったからだ。


仲の良い夫婦でいつも一緒に過ごしていた。

公務員を経て3人のお子さん(お子さんと言っても、もうとうに40歳を超えているが…)も優秀で大学教授に、官僚補佐官、それに確か1番下の子は警察官だったと思う。

なんの問題も無く幸せな家族の見本の様な人たちだった。その二人がある日なんの前触れも無く家からいなくなった。子供たちもどこを探しても見つからなかった。



「岸田さんのおじいちゃんも失踪したってね。」


「えー自治会長の?」


「うん。なんかうち近所にもいよいよって感じだね。」


「そうだな。うちの婆ちゃんも気にしとかないとな。」



「伸晃のおばあちゃん、すごくしっかりしてるじゃん。全然平気そう。」



「そうだな。最近あれにはまってるわ。終活ドラマ『月と鼈』」



「へー……どんな話なの?」



「知らない。ちょっとGoogleで調べてみるわ。えーとなになに、官僚の妻の月子と自営業でいつまでも働かざるおえない亀美子きみこの終活に至るまでの話し……なんだそりゃ?」


「なんかドロドロしてそうね……。ちょっと面白そう。」


「どこが?」


「今度見てみよう。」



「えー?俺はいいわ。」



。。。。。

それから何日かたったある日


「いいって言ったのに。」


まー見てみなよ。

そう言いながら百合子は自宅のDVDに録画した『月と鼈』をパソコンに差し入れて再生を選択


亀美子…「あなたはその美貌でおさむさんと結婚した。結局世の中お金よ。官僚様と結婚したら年金なんてどうでもいいわよね。」



月子……「お金が全てじゃないわ。私は今更それに気がついたのよ。いくらお金があっても心は満たされない。永代供養、立派なお墓があってもそこに愛はないのよ。」



「……なんて内容だよ。昼ドラより酷い。

これを朝枠でよく放送してるな…。」

と思わず独り言…すると百合子が叫ぶ。


「ここ!!」


「なんだよ、いきなり大きな声出して…。」


停止をかけてそのあと0.25倍のスロー再生をかける。すると……、


「なんだよこれ?」


コマとコマの間に何かが映った。

画面を少し戻して、


「今度はコマ送りするわ。」


映像の間に出て来た一瞬の映像。


白い画面に大きく書かれる漢字の七



え!!!


「なんなんだよこれ?」


「私も最初見た時には驚いたわ。」


「百合子お前なんでこんな事に気づいたんだよ。」


「私動体視力いいから。なんか気になって……しかもこれ7秒毎に画像の間に練り込まれているの。でもね、これだけじゃないの。よく見て七という漢字、時々七じゃない漢字が混ざってる。」


「え?七しか見えない……いやこれは…。」


「そう、『七』に時折『亡』が混ぜ込まれてるの。それに後半はね……。」


「まだ他にもあるのかよ?」


「うん7話目にはもっと強烈なやつがね。」


そう言いながら7話目のところに合わせて、

また途中で最初はスロー再生をかける。


「はっきりいって恐怖よ。」


「どんな?」


「ホラーとかじゃないの。本当の人間の怖さってやつ……もう誰も信じられなくなるかも……。」


するとやっぱり先程と同じ様に漢字の七が7秒毎に刻まれている。ところがこの7話だけは

7秒の後のコマは違う物が書かれていた。


「今のところ七じゃなかったよな?」


「わかる?でも亡でもない。」


「やたら文字数多かった。なんか文章に見えた。」



百合子は黙ったままスロー再生からコマ送りに切り替える。



『日本政府は現在年金の捻出に非常に困っています。70歳を過ぎたらお国の為にみんなで飛び立とう。』


「おいおい……こりゃ?!なんなんだよ。」


ドラマに戻る


そして7分後また今度は某県某所の

『七の滝壺』という場所が映される。


七の滝壺は同じ山に七個も滝があって、

そのいずれも滝壺が深く、

黄泉の国へつながっていて

その中の一つだけが極楽浄土へ

向かう滝壺なのだと言う伝説がある場所だ。


その一箇所に矢印が書かれていて、

その矢印の先に極楽浄土はこちら

ラッキースポット!!

と赤字で書かれている。


実はもう一つこの場所が有名な理由がある。


毎年自殺者が絶えない場所なのだ。



「この滝ってあの有名なスポットだよな?」


「そう、あの有名な自殺のスポットよ。」


背筋が凍る様な寒気がした。


「いったいなんなんだよ?これ本当に放送されてのかよ?」



「伸晃はsubliminalって知ってる?」



「サブ……なんて?」


「サブリミナルよ。意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることで表れるとされている効果のことを言うの。閾下知覚とも呼ばれるものね。 サブリミナルとは『潜在意識の』という意味の言葉であるみたい。」



「そんでそのサブリミナルがなんなの?」


「私昔ドラマで見た事あるの。年寄りを死へ誘うように映像ができているという趣旨の短編ドラマ。たしか主演は東幹久……いやそんな事はどうでもいいわ。つまりそれが今現実に行われている。この年寄り向けの終活ドラマに、死へ導くsubliminal効果が組み込まれていることよ。」



「なんだって?もはや犯罪レベルじゃないか……いったい誰がそんな事?どこのTV局……てあれ?」


「そう、あなたが思ったその局よ。」


「なんだよそれ、何がラッキースポットだよ。七.七.七.七ってラッキーセブンどころか、こんなドラマ見てしまうっていうアンラッキーの七じゃないか。」



「私編集長に掛け合ってこの話しを記事にしようと思うの。」



「大丈夫かよ?!国ぐるみだろう?」



「わからない……やるだけの事はやるわ。

それには何回も何回も映像見ないと……。」


。。。。。


そして今度は彼女がいなくなった……。


それと同時に世間の失踪事件も騒がれなくなり話し自体も無かったかのようにフェイドアウトしていった。


スマホの動画配信サービスでドラマを再度見てみたがそのどこにもsubliminal画像は残されていなかった。

もう多分俺しか知らないsubliminalの話。


俺は決意したこの謎に立ち向かう事を……。それが俺のアンラッキーの始まりだったのかもしれない……。



          end

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