超運戦隊アンラッキー7
石田空
追加メンバー随時募集中
「すぐ巻き込まれ事故に遭うのにいつも生還するアンラッキーレッド!」
「すぐ美人局に遭い全財産失ってもなお女の途切れないアンラッキーブルー!」
「くじ運が底抜けにいいのにそのくじをすぐ事故で失くす運がいいのか悪いのかわからないアンラッキーイエロー!」
「平均モブ顔のせいで冤罪で警察に捕まってもすぐ釈放されるアンラッキーブラック!」
「人に頼まれソシャゲのガチャを回して星5を当て続けても自分のガチャは爆死アンラッキーホワイト!」
「地震雷火事親父全部に巻き込まれてもなお元気アンラッキーゴールド!」
頭にヘルメット。全身タイツ風のパワードスーツ。それぞれのカラーを表している人々に、私は真新しいパワードスーツを差し出されていた。
「そして君が選ばれし七人目、アンラッキーシルバーだ!!」
「待て待て待て待て」
さて、どこから突っ込んだものか。
私は頭を抱えていた。
「……まず、アンラッキーレッドさんとアンラッキーゴールドさん、キャラ被ってませんか?」
「ちなみにレッドは交通事故担当、ゴールドは自然災害担当だから、微妙に被ってないぞ」
「親父は自然災害なんですか。あとアンラッキーブルーさんとアンラッキーブラックさんは悪いこと言いませんからお祓い言ったほうがいいです。絶対ヤバイもんに取り憑かれてますよ」
「そういうスピリチュアル的なものは信じてないんだよなあ」
「アンラッキー7とか名乗る不審者集団に入っててもですかね??」
「あのー、私たちはなにかツッコミとかないですかねえ」
「なんでそんなにワクワクしてるんですか、アンラッキーイエローさん。アンラッキーイエローさんとアンラッキーホワイトさんは、本当はこれ運がいいんじゃないですかね、全然自分自身に恩恵がないだけで」
「それ逆に運悪いじゃないですかー」
「ねー」
どうもヘルメット越しから聞こえる声とテンションからして、イエローさんとホワイトさんは若い女の子らしい。
そしてなによりも、このスチャラカ集団にどうして私がスカウトを受けているのか。
「私、そもそもあなた方になんで絡まれているのかわかりませんけれど」
「だって君、私たちが見守っている中でも、天下一品のアンラッキーだったじゃないか」
……自分が不運だと知ってはいるが、人に指摘されるとムカつくのはなんでだろう。
こちらがイラッとしているのを無視して、アンラッキーレッドさんが指を折りはじめる。
「信号を三回連続で赤に捕まって立ち往生。そして現在進行形で、道路の中間地点に立ち往生」
「うっ」
そう、私たちは赤の間、比較的長い道路の中間地点で、全員固まって信号が変わるのを待っている。道路は高速付近のため、トラックやらバスやらが勢いをつけて走っていて、はっきり言ってむっちゃ怖い。
「自転車で走っているタイミングで、その場にいた警察官から職務質問」
「ど、どこから見てたんですかね!?」
「パトロール中にこれだけ細かくアンラッキーに見舞われている人がいたら、観察するよね」
「仲間意識か! 仲間意識なのか!?」
「目の前でスーパーの安売り卵がラスト一で完売」
「やめろ!? そもそもアンラッキーで人助けってコンセプトがさっぱりわからない!」
「なにを言っているんだ。これはとっても便利なことで……」
言っている間に、女性の悲鳴が聞こえた。
「やめてマーちゃん! 今トラックが左折してるから!」
信号が点滅したから、そろそろ青だろうと判断した子供が、道路を渡ろうとしている……そこには左折しようとしているトラックが。
アンラッキーレッドは、なんの迷いもなく飛び込んだ。って、おい!
「あの人死ぬ気ですか!?」
「死なない死なない。なんのためのパワードスーツなのか。これはマンション50階から落とされても死なないダメージ超軽減素材でつくられているから」
「え、あれを」
「自分のアンラッキーで、人のアンラッキーを肩代わりしているんだよ」
アンラッキーゴールドさんは思っているより老獪な口調で教えてくれた。
アンラッキーレッドさんは「マーちゃん」の手を取ると、そのままブンッと投げた。それを受け取ったのは、アンラッキーブルーさんだ。
「マーちゃん!!」
女性はなおも悲鳴を上げているものの、アンラッキーブルーさんに抱えられたマーちゃんは「すっごーい!」とお目目キラキラだ。暢気だ……。
しかしトラックがアンラッキーレッドさんを、ハネたぁぁぁぁ……! と思ったら、ハネた勢いを使って上空でぐるぐると体操選手よろしく回転しまくってから、手を挙げてポージングをした。十点満点。
ハネたトラックの運転手さんは慌てて降りてきて平謝りしたが、アンラッキーレッドさんはどこ吹く風だ。
「気にしないでください! いつも運搬お疲れ様です!」
「あーあー……」
車にハネられるかもしれなかったマーちゃん。
子供を失うかもしれなかった女性。
人をハネて人生終わるかもしれなかったトラックの運転手さん。
合計三人のアンラッキーを肩代わりしてしまったのだ。
ツッコミが追い付かない私ではあったけれど、さすがにこの流れには感動してしまった。
運転手さんは何度もお礼を言ってから立ち去ったタイミングで、ようやく信号が変わった。
マーちゃんを女性の元に返していく。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
「いえいえ。マーちゃん。次から信号が完全に変わってから渡るんだぞ?」
「うん!」
これぞまさしくハッピーエンド。
じんわりとした感動がその場を占めていたが。
「……順恵? 君、独身だったんじゃ」
アンラッキーブルーさんがヘルメットを外した。あら、どこぞの雑誌コンテストで優勝してそうな色男。
……それはさておき、アンラッキーブルーさんに声をかけられた女性……順恵さんは凍り付く。
「さ、聡くん……ち、違うの……この子は」
「別に君がシングルマザーでもいいんだ。でもこの子はいったい」
「おねえちゃん? おにいちゃんとしりあい?」
「マーちゃん」だけおおらかな声を上げている。
おい、なんか全然違う泥沼ドラマがはじまろうとしているじゃないか。アンラッキーブルーさん、どれだけ女運がないんだ。マジでお祓い行け。
ふたりがマーちゃん挟んでなにやら話し込みはじめた中、老獪なアンラッキーゴールドさんが笑いながら声をかけてきた。
「笑いの絶えない職場だけれど、どうかな? アンラッキー7の最後の一枠に入るのは」
「……あなた方の活躍を、心よりお祈り申し上げます!」
私は元気にそう返した。
<了>
超運戦隊アンラッキー7 石田空 @soraisida
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます