出席番号7番

オビレ

第1話

「まじでいいよなー。真剣に嫉妬するわ」


 日替わり定食を食べながら、山本はそう言った。


「真剣に嫉妬ってなんだよ」


 俺は親子丼にした。ここは高校の食堂だ。

 俺らの代は弁当派が多いから、周りにいるのは三年の先輩と一年の後輩ばかりだ。


「はぁ~? わかってるくせに憎たらしいやつだなぁお前は」


 そうだな、わかってる。

 山本が言いたいのは俺の右隣の席がクラス一、いや学年一可愛いと称されている白川しらかわということだろう。

 ちなみに今は四月の中旬。席は出席番号順だ。


「隣っつっても席がくっついてるわけじゃねーし」


「んなもん関係ねーわ! ぶっちゃけ、いい匂いとかすんの?」


「知らねーよ。俺は彼氏か」


「はぁ……ずりぃなぁ」


「どうせもうすぐ席替えじゃんか。隣なれるかもだぜ」


 山本は俺の顔を見た後、大きくため息を吐いた。


「あのなあ、そう簡単になれると思うか? どんだけ確率低いと思ってんだよ」


「まぁ……そうか」


「そんな運に頼るしかないオレとは違って、お前は席替えしようが、テスト期間に入れば自動的にまた隣だもんな。ったく、番号も7番とか、お前はラッキーボーイか」


 少しはその運分けろよ、と付け足し、山本は購買で買っていたあんぱんにかぶりついた。

 それが入っていた袋にはまだ別のパンが複数入っている。

 今日の日替わり定食は割りとボリューミーに見えたが……こいつどんだけ食う気だよ。



 案の定、初めての席替えで、山本は白川と隣の席どころか少し近い席にさえもならなかった。俺はというと、まさかの前後になった。


「まーーじーーでーー! なんでだよーーー!」


「……俺に言われましても」


「お前最低! その運分けろって言ったよな!? もーやだぁ」


 へこんでいるように見える山本だが、こいつには好きな子がいる。クラスは違うが。


「俺からしたらお前の方が最低な気するけど」


「へ?」


「玉木のこと好きっつってなかったけ?」


「それとこれとは別なんだよ! アイドルみてーなもんなんだよ!」


 アイドルみたいなもんねぇ……。じゃあ俺は、手の届かない人に恋しちまってるっつーことか。

 そう、俺は白川にまんまと落ちた。

 二年になって、隣の席になって、初めて話した時から。


 落ちないわけないだろ。あんな可愛くて、優しい笑顔で消しゴムを貸してくれる子に。


 席替えしてもまた近くになれるとは、出席番号7番はまさに幸運の番号かもしれない。

 ひょっとするとだ、俺は白川と付き合えるかもしれない。


 ちょいと恥ずかしいことを考えていた俺に、思わぬ情報が舞い込んだ。

 それは中間テストが終わった初夏の頃。教えてきたのは山本だ。


「おい! 聞いたか!?」


「何を?」


「白川さん、彼氏いるらしいぜ!」


「……そうなん?」


 おかしいぞ。一年の頃から白川には彼氏がいないことで有名だったはずだが。


「しかも高校に入る前の春休みからだってよ! 同じ中学のやつらしいぜ」


 ……は?


「色々聞かれるの嫌だから周りには言ってなかったらしいぜ。そいつは他校だから見れねーけど、しおり曰く、顔はイケメンじゃないけど、超優しいやつなんだとよ! 白川さん見る目あるんだな」


 栞とは、最近山本にできた彼女だ。苗字は玉木。

 そう、こいつは中間テスト前に恋を成就させやがった。


 既に白川にどっぷりハマっている俺は、これから定期テストのたび、毎回隣で顔を合わせなきゃいけねーのか…………辛すぎんだろ!


 おい、出席番号35番の山本、お前の方がラッキーじゃねぇか! fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出席番号7番 オビレ @jin11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ