いい? 悪い?

瀬川

いい? 悪い?




「7っていい数字だって思われているけどさ、すごいだろうアピールっていうか、結構押しが強くない?」


「押しが強いってなんだ」


 急に話しかけられて、俺は読んでいた本から顔を上げた。

 そうすればテレビを観ていた響の顔が、こちらに向いているのが分かった。


「でも、7って聞くと嬉しくならないか? なんかラッキーな気分になるし、いいことが起こりそうな気になる」


「えー。でも国によっては、7も悪い数字だし、アンラッキー7の法則って知っている?」


「アンラッキー7の法則? なんだそれ」


 初めて聞いた。この話がどこに行くのか分からず、でも話に付き合おうと本を脇に置いた。


「7が最後につく年に、経済が打撃を受けたりしたんだって。そう考えると、あながちいい数字だとは思えないんじゃないかな?」


「でも俺達は日本人で、経済を深く考えるのも大事だけど、そういうのは置いといてもいいんじゃないか?」


「でも、不吉な数字かどうか考えるべきだよ」


 なかなか粘るな。どうして急にこんな話を始めたのだろう。静かにテレビを観ていたはずなのに、何がきっかけで……。

 テレビでは雑学を教える番組が流れていた。そこで、7が不吉だとやっていたのだろう。


 問題は、何故ここまで機嫌が悪くなったかだ。

 そこを考えてみて、ふとその手が震えているのに気がつく。今の時期は、全く寒くはない。だから、別の理由で震えている。


 今も7が良くないと、文句を呟いている彼は泣きそうに見えた。やけくそになっているみたいな。


 そういえば、今日は7がつく日である。カレンダーを見て、ぼんやりと考えたが、急に閃くものがあった。


 なんだ、それでか。

 あまりにいじらしい態度に、胸が苦しくなった。悪い気分ではなく、愛おしさでたまらなくなってだ。


 まったく。仕方がない。

 ここでフォローしないと、たぶん挫けて立ち直れなくなるだろう。そして、また言うまでに時間がかかるはずだ。


 それなら、俺からアシストするか。

 心臓がドクドクとうるさく鳴り始めたのを抑えて、俺は震えそうになる口を開く。


「……7が悪い数字だって思うなら、いい思い出で塗り変えようか?」


 だから早く、どこかに隠しているだろう指輪を、俺の薬指にはめてほしい。




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