対決、アンラッキー7!
舞波風季 まいなみふうき
7代目勇者と7代目魔王
ある日、俺は悪友から呼び出された。
「実は頼みがあるんだが」
彼は次期勇者に内定している王国最強の剣士だ。
「なに?」
こいつから頼み事なんて天地がひっくり返るんじゃないだろうか?
「いやさ、俺の次期勇者就任のことなんだけど、代わってくれねえかな?」
「えっ!いきなり何で?」
現国王は男子後継者に恵まれず、王位継承権があるのは一人娘の王女のみだ。
そういう国情もあって、勇者になり魔王軍を滅ぼせば王女の夫という名誉を賜わり、将来的には国を統べる女王の共同統治者になれる、というのがもっぱらの噂だ。
「おまえ、すげえ喜んでただろ?憧れの王女様とウハウハだぁ~って」
「ちょ…そんなでかい声で言うな」
彼は慌てて両腕をブンブンさせた。
「いきなりどうしたんだよ?」
「その…最近スランプでな…剣筋がブレるというかなんというか…」
歯切れが悪い言い方で、しかも俺と目線を合わせようとしない。
「そんなこと言っても、俺の剣技なんて良くて平均レベルだぜ。とても勇者なんか務まらねえって」
「い、一時的でいいんだ、スランプから脱したらすぐに代わるから」
どうにも腑に落ちないが、まあ一時的ならいいか。
一応俺も衛兵だしな。
一週間ほどして俺は晴れて勇者になった。玉座の間で国王陛下や王女殿下から型どおりの祝の言葉を賜り、集まった貴族達からも祝いの言葉が浴びせられた。
そんななか、
(あいつ7代目勇者だよな)
(かわいそうに…)
という、俺の気持ちをざわつかせる話が聞こえてきた。
(かわいそう?何で7代目がかわいそうなんだ?)
「じゃ、頼んだぞ」
悪友が俺の肩を叩いて言った。
「おい、7代目がどうのってのは何のことだ?」
不振に思った俺は悪友に聞いた。
「あ、それね。まあ、単なる噂っていうかジンクスっていうか…」
なんとも歯切れが悪い。
すると横にいた噂好きな貴族がご丁寧にも教えてくれた。
「我が国では7番目は不吉っていう言い伝えがあってね。特に7代目勇者は『アンラッキー7』と言われていて魔王との戦いで悲惨な死を遂げると…」
俺は悪友に詰め寄った。
「てめえぇー!どうりで様子がおかしいと思ったら!」
「ま、魔王と戦わないようにすればいいじゃん、大丈夫、大丈夫」
無責任極まりないことを言いやがって。
そんな時、玉座の間に伝令が飛び込んできた。
「魔王軍が大挙して攻めてきましたぁ!」
俺は全身の血の気が引いていく音が聞こえたような気がした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺は魔王。
つい先日、父である先代魔王から7代目魔王の座を引き継いだ。
どうやら、最近勇者も新たに7代目になったらしい。
言い伝えでは7代目勇者は『アンラッキー7』と呼ばれ、魔王に滅ぼされる運命にあると言われているようだ。
「千載一遇のチャンスだ、息子よ」
そう父に言われ急遽軍を編成して王都に攻め込んだ。
(でも、わざわざ俺が7代目にならなくても親父が出ていけばいいんじゃないか?)
進軍中、何故か妙な運命じみた力に引っ張られているようで俺は小さな不安を覚えていた。
「心配いりません、若」
進軍の間も隣について来てくれた“爺”と呼びならわしている魔王付きの執事が言った。
「相手の勇者は『アンラッキー7』、赤子の手をひねるようなものですじゃ」
そう、爺が元気づけてくれているところに、魔王軍付きの占星術師が駆け寄ってきて、爺に何やら耳打ちした。
「なんじゃとぉ!若も『アンラッキー7』の星じゃとぉーー!」
え?何それ?
『アンラッキー7』って勇者だけじゃないの?
「わ、若…」
爺が真っ青な顔で俺を見た。
そして俺も爺に負けないくらい血の気が引いた真っ青な顔をしている自信があった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
王都付近の平原で王国軍と魔王軍は睨み合った。
そして、勇者と魔王は軍の先頭に立ち10歩ほどの距離をおいて対峙した。
「お前が7代目勇者『アンラッキー7』か」
魔王が言った。
「その呼び方はやめてくれ」
うんざりした様子で勇者が言った。
「ふむ…俺も7代目なんだが…実は、ついさっき分かったのだが…俺も『アンラッキー7』らしいんだ」
やや気まずそうな様子で魔王が言った。
「えっ?マジで?」
「ああ、マジだ」
しばしの沈黙 が二人を包んだ。
「とりあえずこの場は引くってのはできねえか?」
勇者が魔王に聞いた。
「いや、先代魔王は、俺の親父だが、お前のことを聞いて今が王国を叩き潰すチャンスだと考えていてな」
「お前も『アンラッキー7』だということを知らないのか?」
「ああ、知らない。俺もつい今しがた知ったばかりだしな」
再び沈黙。
「じゃあ、仕方ねえ。被害を最小限にするためにも、一騎討ちでかたをつけるか」
「そうだな、それしかあるまい」
両軍が息を呑んで見つめる中、勇者と魔王は剣を抜き間合いを詰めていった。
「ところで、アンラッキーってことはよ、運がマイナスってことだよな?」
間合いを詰めながら勇者がふと思いついて言った。
「そ、そう…なのか?」
今ひとつ理解しかねる様子で魔王が言った。
「てことはよ、俺の運もお前の運もマイナスってことじゃね?」
「その論法だとそうなるな…」
「そうするとマイナス✕マイナスだからプラスだよな?」
「?」
「つまり俺とおまえが戦えばプラスになるってことだ」
「??」
多少思考が暴走気味の勇者に魔王はついていけずにいた。
「要するに俺とお前が戦えばどっちにもプラスになるってことだ!」
「どうも俺の理解の範囲を超えているのだが、俺たちが戦わなければならないことには違いはないな」
魔王はまだ半信半疑状態である。
「ああ、そうだ。でも俺は何だか楽しみになってきたぞ」
「楽しみ、というわけにはいかないが…俺も戦いの結果、というより後のことが気にはなってきた」
勇者も魔王も先程までの未来を諦めた表情とは違いやや不敵な笑みを浮かべていた。
「それじゃ、いくぞ!」
と勇者。
「うむ、参る!」
受ける魔王。
二人同時に踏み込み剣と剣が激しくぶつかり合った。
その瞬間、凄まじい光が二人を包み込んだ。
「勇者殿!」
「魔王様!」
息を飲んで見ていた両軍から二人を気遣う声が上がった。
やがて光が収まると、そこには一人の剣士が立っていた。
「俺は…?」
剣士は手に持った剣を掲げて見た。
それは勇者の剣とも魔王の剣とも違っていた。
あえて言うならばそれぞれの特徴を混ぜ合わせた意匠をしていた。
「俺は、俺たちは1つになったのか?」
(そうみてえだ)
(そうらしいな)
剣士の頭の中には勇者と魔王の意識が同居していた。
「マイナスとマイナスでプラス…こういうことなのか」
勇者と魔王が融合して新たに生まれた第三の人格は、戸惑いながらもこの状況を理解しようとした。
(勇者と魔王で勇者王ってとこか?)
勇者の意識が言うと。
(いや、魔王と勇者で魔王者だろう)
負けじと魔王の意識が返す。
(魔王者って変だろ。もろ悪者じゃねえか)
(勇者王などありきたりすぎてあくびが出る)
(なんだとぉーー!)
(もう一度やるか?)
「はあ…」
自分の頭の中の2つの人格が言い争うというとんでもない状況に、光から生まれたばかりの剣士は行く末を案じるようにため息をついた。
対決、アンラッキー7! 舞波風季 まいなみふうき @ma_fu-ki
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