窓辺の輝き

トン之助

七つの不幸せより一番の幸せ

『自分のセールスポイントを書いてください』


 大学入試が迫った頃、わたしは放課後の自習室でその問題を見つめていた。


 わたしのセールスポイント。


 シャーペンの芯を出して引っ込めて繰り返すけど一向にその項目が埋まらない。


 わたしのセールスポイント。


 考えても煮詰まるだけなのでわたしは唸りながら家へと帰る。



「――ねぇ、兄さんわたしのいい所って何かな?」

「いい所? その逆なら山ほどあるけど」


 二つ年の離れた意地悪な兄に聞いたのが間違いだった篦かもしれない。とはいえ兄の影響を受けて育ったわたしには兄に聞くことが一番いいように思う。

 兄が居る高校に入学したのも、わたしが本好きになったのもこのイジワルを言う兄のせい。


「根暗、引っ込み思案、臆病、無口」


 ツラツラと並べられる言葉にわたしの眉間がピクピクと動く。


「コミュ障、ぐーたら、臆病」


「ちょっ!? 臆病って二回も言ったよね?」


 淀みなく紡がれた言葉をわたしは聞き逃さなかった。


「たってそうだろ? アイツへの返事を保留にしたままじゃん」

「……むっ」


 わたしが二年生の時に倒れた時、彼が家まで運んでくれた。両親は仕事で居なかったし、わたしも自力で帰ることが出来なかった。その時、ちょうど玄関先に居た兄と鉢合わせになったらしい。

 らしい、と言うのはわたしはその時意識が朦朧としてたからあまり覚えていない。ただ、兄と彼が言い争いのような事をしているのはなんとなく理解できた。


「……なんで兄さんが仲良くなってんのよ」


 兄の問いをはぐらかすようにわたしは恨み言を口にする。


 あの後何が起こったかはわからないけど、兄と彼は連絡先を交換して時折二人で出かけているようだ。学校での彼も「お兄さんってすごね!」とやたらと兄の話をする。


 それ以前に、あの深夜の路地裏で彼はわたしに想いを伝えてくれた。突然の事でパニックになったわたしは彼に何も言えずにはぐらかす。カレンダーを見るのが正直怖い。


「お前の至らない所なんていくらでも出てくるけど……兄ちゃんは思うぜ、アイツと――」

「分かってるっ! 言わなくていい」


 どれだけわたしに不幸な事があろうとも彼は隣に居てくれた。


 心配してくれて、勇気づけてくれて、親身になってくれて、庇ってくれて、笑ってくれて、泣いてくれた。



 そんな事わたしが一番わかってるよ。



 貴方に出逢えた事がわたしの一番の幸せなんだって。


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