ナナコさんは闇堕ちしたい【KAC20236】

吉楽滔々

第1話

悪魔が現れた瞬間、七子は叫んだ。


「不幸体質にしてください!」


『は!?』


もううんざりだった。


「ありがと!七子のおかげ!」


「やっぱり神様仏様七子様だ!」


人をいくら幸せにしても、感謝されても、私には幸運が起こらない。不公平だ。あんまりだ。だから不幸を呼ぶようになりたい。


そう切々と悪魔に訴えて、七子は自ら闇堕ちした。



* * *



学校帰り。


いつものように助力を請われ、内心ほくそ笑む。


アンラッキー七子を知らしめる大チャンス。


だけど信じ難いことに、誰も不幸にならなかったのだ。


彼らは変わらず幸運を手にしていた。


私は車に泥をかけられ、怒れる猫に引っ掻かれ、蜂に追われたけど。


そしてとうとう七子は気づいた。


私といるとラッキーだと彼らが思っているから、そうなっているだけなんだと。


友人と別れ、とぼとぼと歩く。


途中で思い切り転んで、お礼の鯛焼きが無惨に潰れた。


馬鹿だなぁ…目先のつまらない事にこだわって、自分でこんなことにして…でも、自業自得だ…


そこにぽん、と悪魔君が現れる。


『あんたまともに聞いてなかったと思うけど、あと1分で無料お試し期間終わるよ。本契約はどうする?』


「終了で!終了でお願いします!!」


七子は見事なスライディング土下座を悪魔の前できめた。


『了解、っと』


こちらの都合で呼んだ上にこれではなんだか申し訳なかったので、私はチョコが好物だという彼にゴジャバの高級ホットチョコを奢ることにした。


「でもよかったッスね。見る面を変えるだけで問題が問題じゃなくなることに気づかないまま終わる人、結構いるんで。ホント、名前の通り幸運な人ッスね、あんた」


彼は濃厚なチョコに満足そうな表情を浮かべながら言った。


「私にもちゃんと幸運はあったんですねぇ」


他人の幸運ばかりに目がいっていて、気づいてなかっただけで。


そんなことを思いながら、七子は甘苦いチョコをこくりと飲み込んだのだった。

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