きららむし6

鳥尾巻

ナナフシ

 きっかけは些細なことだったと思う。

 中学生の時、学校でも目立つ女子グループの子達が、「三森みつもり君カッコイイ」「世那せな君頭良い」なんて言って近づいてきた。


 子供の頃から心の機微なんてものには疎くて、生物としての人類には興味があったけど、年頃の女子に配慮するなんて高度な技は使えない。

 

 僕は読書を中断されるのが嫌で「邪魔だから」とはっきり言ってしまった。それが彼女達の自尊心プライドをいたく傷つけてしまったらしい。どちらにせよ虫や生物の話なんて大抵の子は嫌がるから気にしなかった。


 そのうち噂を立てられているのに気づいた。変な本ばかり読んでオカルトにハマってるとか、あいつに関わると悪い事が起こるとか。


「『アンラッキー世那セブン』なんて呼ばれてるよ」

「しかも三つ盛るからアンラッキー777じゃん」

 

 親切ごかしに教えてくれた奴は楽しそうにわらっていた。人の不幸は蜜の味ってやつね。


 僕はますます人が嫌いになって、前髪を長く伸ばして目を隠した。ナナフシみたいに擬態して、誰とも関わらなければめんどくさい事も起こらない。中学はそれでやり過ごし、高校もそのまま一人で過ごすつもりだった。


 だけど、僕は、天使に出会った。同じクラスの今泉いまいずみ奈子なこさん。

 彼女はお祖父さんが営む「今泉古書店」で店の手伝いをしてる。マニアックな品揃えの本屋で、僕のお気に入りだった。

 僕は教室ではほとんど寝てるので、クラスメイトの顔は認識していなかったのに、彼女は僕を覚えていて声を掛けてくれた。


 他意のない社交辞令だったと思う。でも僕を変なフィルターで見ずに淡々と話してくれる彼女には好感が持てた。

 虫は嫌いみたいだけど、僕の好きな物を否定したりはしない。彼女の祖父も偏愛が過ぎる人だから慣れているのかもしれない。

 

 嫌そうな顔しながらも虫の話を真面目に聞いてくれるのが嬉しい。何よりくしゃみする顔がハナススリハナアルキみたいで可愛いんだ。

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