筋★肉★信★仰

タルタルソース柱島

筋肉よ、永遠に

筋肉は裏切らない。

誰かが言った言葉だ。


確かにそうだ!


筋肉こそ最高の友であり、最高のバディだと思う。

それは鋼の肉体であり、痴漢を腕一つで粉砕するクラッシャー。


ムキムキィ!!


今日も私は筋トレに励む。

迸る汗、輝く筋肉、美しい上腕二頭筋。

何もかもを失いかけた時、私に救いの手を差し伸べてくれたのは筋肉だった。


『悪ぃんだけど、俺らさ、もう別れんべ?』

『え!? な、なんで???』

元恋人だったタクロウが冷たく言い放つ。

男なんて勝手なもんだ。

『ミホちゃんと付き合うから。やっぱさ、おっぱいのデカさじゃなくて顔だんべ?』

おのれ、お前が私のこと大好き、付き合おうって言ったんじゃねえか!!

そんな事を言って去っていった男より筋肉だ。


あいつが大好きだった柔らかい脂肪の塊は鋼のエベレストに変貌した。

筋肉は正直だ。

私が愛情を注げば応えてくれる。



『わが社も不況でねぇ。悪いとは思っているよ。ただね、やっぱり人件費ってのは大きくてねぇ』

『残業手当がつかない!?』

年収6000万の社長が、全社員の前で淡々と発表した。

残業代で保っていた薄給が、みなし残業になったことで、私のOL生活は絶望的になった。


そんなときも筋肉は、私に寄り添ってくれて、励ましてくれる。

やっぱり持つべきものは筋肉だ。


大学生のころ、ミスユニバースだとか女神杯優勝者とかいう過去はない。

一言でいうとゴリラ。

筋肉とこれから一生添い遂げる!

私が、そう心に誓った次の日、それは突然やってきた。


「んあああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁぁンんンンーーーーーーーーんッ!!!!!?」

とても25歳の女の声ではない、と思うが、車にはねられて黄色い声をあげるなど都市伝説だ。

目を覚ませ。


とにもかくにも私は車にはねられた。

アクセルとブレーキを踏み間違えた、とかいうありきたりな理由だ。


吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた私の体を、筋肉が守って―――くれなかった。

全治6か月。

私は、誰もお見舞いに来ない病院のベッドで過ごすことになった。

あんなに聞こえていた筋肉の声が聞こえない。


ただ淡々と過ごす毎日。




やっと退院できたそのときには、最高のバディだと思っていた筋肉の姿はなくなっていた。

大好きだった祖母が亡くなった時のような喪失感に襲われる。


筋肉は裏切らない、じゃなかった。

筋肉と真摯に向き合ってこそ筋肉は裏切らないのだ。

きっとタクロウにも真摯に向き合っていれば、カマキリみたいな顔の女よりゴリラみたいな私に夢中だったに違いない!!


私は、筋肉と再会するために再び立ち上がった。

私の筋肉信仰はこれからだ!!

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筋★肉★信★仰 タルタルソース柱島 @hashira_jima

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