私刑執行

NAZUNA

第1話きっかけ

 今から2年前。私、深川有希子はまだ小学六年生だった。

 昔から動物が好きな性分の為、四年生の頃からうさぎの飼育委員をやっている。

「シロ〜ご飯だよ〜。」

 私は牧草とペレットを持ってうさぎ小屋の前に向かう。


 うさぎ小屋の前にやって来ると、シロは何処か嬉しそうな顔をして私に駆け寄って来る。

 2年間も面倒を見ている為なのだろうか、シロは私によく懐いていた。

 水を交換し、餌皿にペレットと牧草を入れていく。

「いっぱい食べて長生きしてね。」

 私はシロに優しく声を掛けるとその柔らかい頬を撫でてやった。シロは気持ち良さそうに目を細めている。撫でる手を辞めると、まるでもっと撫でてよと言いたげな顔で私の手に愛らしい顔を擦り付けてくる。

 私は、そんなシロが愛おしかった。


「ごめん。そろそろ授業だから行かなくっちゃ。」

 私はうさぎ小屋の鍵を閉めると牧草とペレットを倉庫に仕舞って駆け足で教室へと戻る。


 それから数時間経過して放課後に再びうさぎ小屋の様子を見に行く。

 シロはどうしてるかな〜と呑気なことを考えながら。

 うさぎ小屋の前までやって来ると、そこには私と同い年くらいの少年が居た。同じクラスで乱暴者で有名な葛西翔吾だ。

 彼は、地面に落ちている太い木の枝を拾いあげると、その棒でシロのことを思い切り突き始めたのだ。

 抵抗する術もなく小屋の中で逃げ惑うシロ。私は、考えるよりも先に体が動いた。

「ちょっと何やってるの!?やめてよ!」

 私はそう叫びながら翔吾に掴みかかる。

「ちっ。見つかっちまったか。つまんねえの。」

 翔吾は私の手を乱暴に振りほどくと木の枝を投げ捨てて、運動場の方へと走り去ってしまう。


 私は走り去って行くその背中を呆然と眺めていた。翔吾をいじめてやりたい。そんな加害心がどす黒い塊となって私の心の中で蠢いていた。

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私刑執行 NAZUNA @2004NAZUNA

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