猫の筋肉

鳴代由

猫の筋肉

 近所を悠々と闊歩する野良猫を、羨ましいと思った。だってあんなに身軽なのだから。

 地面を堂々と歩いていたかと思えば、突然ひょいっと横の塀に飛び乗る。その細い塀の上をしっぽを揺らしながら楽しそうに歩いたかと思えば、次は家の屋根の上に軽々と飛び移る。そうして、どこかへ姿を消してしまうのだ。

 そんな猫の姿を見て、私は心底羨ましいと思った。その中で、少しの疑問も浮かぶようになった。


 特に猫の持つしなやかさ。人が到底一歩で届かないような高さの場所へ、あの、人よりも小さい猫が登っていくのだ。逆も然り。高い場所から地面に降り立つときも、音もなく、平然とそれをやってのける。

 猫がそれらをできるのはなぜなのか、と私は疑問を持ったのだ。


 そうなれば、と本を引っ張ってきて猫の生態を調べようとするけれど、なかなか難しかった。目当ての情報へと行き着くには、何冊も、何冊も読まなければならない。あいにく私はひとつのことに何冊もかけて調べる、ということは面倒だと思うタチだったので、本を開くのはすぐにやめた。


 インターネットを使うのも同様だ。というよりも、あまり使いたくないのだ。物事を検索して何かを調べる、ということがはっきり言って得意ではない。だから、パソコンは最初から電源をつけなかった。


 さてどうしたことか、と私は思案する。調べる手がないとすれば、これ以上は自分で考えるしかない。


 私は考えた。来る日も来る日も、あの猫のしなやかさについて考えた。時には野良猫をじいっと観察して、少し触れてみようと手を伸ばし、そのまま引っかかれたこともあった。


 そしてある時、私はふと気付く。人間の体を動かしているものはなんなのか、と。そうだ、筋肉だ! 人間と猫では筋肉の動き方が違うのではないか。そう考えてから行動に移すのは早かった。


 しなやかな筋肉を私の体に取り入れるために、私は本を読んだ。筋トレのための本だ。私はその本に従って、筋トレをした。来る日も来る日も、筋トレをした。ひいては猫に近付くため。


 そして私は力強い筋肉を手に入れた!



 ……だが猫にはなれなかった。筋肉は重たいし、以前と体の形が変わってしまったので、部屋のあちこちにぶつけることが増えた。

 だから、筋肉とはもうおさらばしよう。また別の方法で、猫になることを考えようと思う。

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猫の筋肉 鳴代由 @nari_shiro26

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