第217話

 清志郎はようやく、すべてを取り戻した。

 踏みしめているステージの感触、観客の声、臨場感。蘇った良心と罪悪感は、鮮やかに彼の胸を切り裂いた。しかしその痛みこそが、生きている証だった。


 清志郎が見ていたのは、あゆらだった。

 舞台の裏から勇ましく歩み寄る彼女。

 危険を顧みず、正義を貫こうとするあゆらに、清志郎は母を重ねていたのだ。

 清志郎はあゆらを好きだった。

 ねじれきった心では、志鬼のように素直に愛情表現をすることはできなかったが、あゆらの意思の強い瞳に、他とは違う何かを感じていたのだ。


 あゆらと志鬼は、清志郎の一歩手前で立ち止まった。

 するとその後ろからやって来た警官の一人が、清志郎の側に行き、声をかけた。


「帝清志郎くん、萩原美鈴さん殺害と、余罪の件で署までご同行——」


 警官が言葉を切ると同時に、あゆらと志鬼も、目を見張った。


 清志郎は泣いていた。

 言葉では現せない思いが、浄化の雨となり静かに頬を伝った。



「はい、僕がやりました。萩原美鈴さんを、殺しました」



 会場中が、どよめいた。

 清志郎の自供に、あゆらは耳を疑い、美鈴との日々が走馬灯のように脳内を駆け巡った。

 あゆらは手を握りしめ、歯を食いしばった。

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