第198話

「姉貴ってええ意味でお嬢っぽくないっすね、金持ちの女ってもっと気取ってて嫌味なんかと思てました。まあそんな奴なら志鬼兄貴が惚れてないやろうけど」

「虎徹くんだって……極道っぽくないわよ、話しやすいし優しそうだわ」

「よく言われるっす、ほんまは仕事も好きやないし……だから志鬼兄貴が自営業とかしてくれんかなって、密かに夢見たりしてるんすよ、あの人が独立したらついて行って身削ってでも働こうって若い奴らは俺も含めてめっちゃおるんで」

「え……それって」

「おいおっさん!」


 気になる話題にあゆらが口を開いたが、それは店内に響き渡る大声にかき消された。

 

 出入り口付近の席に腰掛けた、茶髪にダボついた服装をした男二人。店中の客が注目する中、店主である年配男性がカウンターの奥から姿を現すと、怯えた様子で彼らの元に向かった。


「は、はい、なんでしょう」

「これ、まずすぎて食えたもんじゃねえから作り直せよ」

「俺のもよろしく」

「で、ですが、全部食べておられます、よね」

「はあ? 文句つけてねえでさっさと新しいの出せよ!」


 誰が見ても明らかな言いがかりである。

 大きな声で脅してタダ飯を食らおうと言うさもしい連中だ。

 先ほどまで談笑で賑わっていた空間は一気に静まり返り、険悪なムードが漂う。

 そんな中、険しい顔つきで立ち上がった虎徹が問題の二人の席に歩み寄った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る