第195話

「虎徹、くん? は、何歳なの? 学校は?」

「十五なんで志鬼兄貴の一個下っす、学校はないっすね、小学生ん時に給食目当てで行ってたくらいで」

「給食……?」

「あ、俺の親犯罪者なんすよ」


 あゆらはギョッとした。まさに今、他人事と言えない文字が虎徹の口から放たれたからだ。


「しかも俺を虐待した罪で。アホすぎるっしょ? 暴力とかはなかったんすけど、放置子ほうちごってやつで。食い物ないから腹減って死にそうで、給食だけやと足りんし、で、その辺のスーパーとかで万引きしまくってたら地元の不良チームに目つけられて、リンチされてるとこを志鬼兄貴に助けてもらったんすよ、もう四年前になるけど、あの時の志鬼兄貴のかっこよさえげつなかったっす」


 成長盛りの男児が一日給食だけでもつはずがなく、虎徹は常に食料を求め徘徊していた。

 生きるか死ぬかの瀬戸際で、学業のことなど考えられるはずがない。

 しかし虎徹が悲惨な生い立ちをあっけらかんと話すものだから、暗い空気が漂う余地がなかった。


「志鬼兄貴まだ中一で、相手高校生やったと思うんすけど、みんな一瞬で半殺しにして、俺のこと拾ってくれたんすよ」

「はしょりすぎやろ。ほんまは児童養護施設決まるまでうちで面倒見たるって話で連れて来たのに、組入る言い出したんやろうが」

「当たり前やないっすか、施設行くより志鬼兄貴の側におった方が絶対楽しいっすもん! あの時もらった鮭弁当の味は忘れません」

「ちょうど賞味期限切れてたから」

「俺の尊い記憶が残飯処理に!」


 あゆらは二人を不思議な気持ちで眺めていた。

 なんなんだろう。彼らは。

 散々愛に飢えてきたはずなのに、どうしてこうも卑屈にならず素直でいられるのだろうか、と。

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