第193話

 志鬼はあの事件から三年越しに、ようやく泣けた。

 逃げるのではなく、忘れるのでもなく、本当の意味で親友の死を、乗り越えられた気がした。


 ――俺、めっちゃかっこ悪いとこばっかり見せてるけど、それでもええんかな……?


 あゆらの前ではかっこよくありたいのに、拗ねたり泣いたり熱を出したり、逆のことばかりしている気がする志鬼。

 それでも嫌がるどころか好意に溢れるあゆらに、志鬼の視界はまばゆい金色に染まる。

 今まで誰も見せてくれなかった景色が、あゆらと一緒ならこれからも変わらず側にあると信じられた。


「……なあ、あゆら」

「なぁに?」

「俺、ほんまにあゆらのこと好きやねん……だから、いつまでも不良なんかやってないで、家のこともちゃんとするから、俺とずっと一緒に——」


 そこまで言って、ハッとした志鬼は顔を上げた。

 すると視線がぶつかったあゆらは、目を丸くしながらも頬を紅潮させていた。


「あ、いやっ……これ、今言うこととちゃうな」

「そっ、そんなことないと思うけれど……」


 もどかしい静けさが訪れたのち、二人はどちらともなく見つめ合い、唇を寄せた。


「二人とも完全に俺の存在忘れてますよね? 早よせな騰さん呼ぶっすよ」

「……やめんかい、話がややこしくなる」


 小窓から片目だけ覗いた虎徹のツッコミに、確かにすっかり忘れていたと二人は納得して頷いた。

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