第190話
志鬼はそのまま帰宅すると、父である組長の部屋に押しかけた。
力のまま襖を開いた先には、何食わぬ顔で和室の座布団に腰を据える父がいた。
志鬼は、怒りのあまり声が出なかった。
しかし、父は息子が何を言いたがっているか理解した。そして次に言い放った台詞が、志鬼の逆鱗に触れる。
「あの小僧、どうせ後半年の命やったんやろ。少し縮まっただけやないか」
——その通りだった。
優介は志鬼と親しくなった時からすでに余命宣告を受けていた。
関東から関西にいる名医に手術を受けるため転校して来たが、それでもダメだった。
だから大切に、大切に大切に最後のその時を迎える日まで思い出作りをしていたのだ。
志鬼の脳細胞がブチリと弾ける音がした。
もはや頭ではなく、本能で動いた志鬼は、父の頬骨が砕けるほど殴り飛ばした。
「ふざけんな……ふざけんなよクソが……! 優介の……優介の残りの人生はなあ、お前みたいなクズの一生よりずっとずっと尊いものやったんやぞ! それを……それを踏み躙りやがってカスがあああ!!」
組員も近くにいたが速すぎたせいで一瞬何が起きたかわからず、気がついた者から志鬼を止めにかかった。
「志鬼兄貴! ダメっすよ、それ以上やったら!!」
虎徹も駆けつけ、組長に馬乗りになり殴り続ける志鬼に飛びついたが返り討ちになるだけだった。
しかし一人だけ、志鬼に素手で太刀打ちできる男がいた。
騰は志鬼の学ランの襟ぐりを掴み、壁に投げ飛ばした。
「止めるな騰! こいつを殺して俺も死ぬ!!」
「似合わねえこと言ってんじゃねえか、ならまずは俺を殺せや」
サングラスを捨てた騰は、再び立ち上がった志鬼と拳でぶつかり合った。
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