第178話

「お母様、ありがとうございます。志鬼に断りを入れてからすべてお話します。それまでにどうか心の準備をなさって。私は大丈夫です、では……」


 そう言ってあゆらは母との通信を切ると、壁を背もたれに一つ小さな息をついた。

 すると、先ほどまで夕飯に鮭茶漬けを食べていたアキが、あゆらの足に擦り寄って来た。

 あゆらはアキの両脇を持って抱き上げると、頭を撫で志鬼の枕元に戻った。


「ごめんなさいね、あなたのご主人様をこき使ってしまって……」


 あゆらは正座をした膝にアキを乗せると、洗面器に置いたタオルで志鬼の額に浮かぶ汗を拭った。

 こんな時でも輝きを失わないススキのような金色の髪。その結び目を解いた志鬼を、まさかこんな形で初めて見ようとは。


「う……ん」

「志鬼? 大丈夫?」


 もぞもぞと寝返りを打ちながら、苦しげに眉間に皺を寄せる志鬼に、あゆらはどこか痛いのだろうかと心配して顔を寄せた。


「あ、ゆ……おれ、まも……」


 目を閉じたまま、途切れ途切れに発された言葉に、あゆらは動きを止めた。


「……夢の中まで私を守ってくれてるの、バカね……」


 子供のような寝顔とあきれるほどの一途さに、あゆらは目頭が熱くなるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る