　ようやく唇が解放された先には、真剣そのものの、志鬼の顔があった。

「あゆらが自分のこと嫌いになっても、俺がその分あゆらを好きでおるから」

　数えきれない複雑に混ざり合う感情が、あゆらの瞳から溢れ出す。

「……志鬼、志鬼、し、きぃ……！」

　不謹慎ながら、その涙があまりに美しく見えた志鬼は、噛みつくように激しいキスを繰り返した。

　清志郎の痕を消すように、余計な考えを捨てさせるように、初めての時とは違う、深く入り込む大人のキスだ。

　当然うまくなんかないが、そんなことはどうでもいい。この情熱こそが、志鬼のすべてだった。

　時を忘れるほど唇を重ねた後、あゆらは志鬼に抱きしめられた。

　あんなに動揺していたのが嘘のように、落ち着きを取り戻したあゆらの身体の芯には甘い痺れが残っていた。

　そしてようやく気づくのである。

　志鬼の体温が異常に高いことに。

「……志鬼、あなたずいぶん熱くない？」

「そら、こんなことしてたら熱くもなるやろ」

「いいえ、そんなレベルじゃないわ——あつっ！」

　志鬼の長い前髪に隠れた額に手を当てたあゆらは、想像以上の高熱に驚きの声を上げた。

「……そういや、さっきから地面割れてるなとは思うけど」

「重症よ！　早く帰って休みましょう！」

　こうして志鬼はあゆらに付き添われ、帰路に着くこととなった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい