第137話

「さあ、あゆら、こちらに来てお前も皆様にご挨拶しなさい」


 父の声に、あゆらは目眩がした。

 気分が悪く、視界が歪み狭くなる。

 怒りで顔が引き攣ったのは生まれて初めてだった。

 何が悲しくて、親友を殺した男に人生を捧げなくてはならないのか。それを画策した父もまた、清志郎に等しく悪魔のように見えた。


 それでも立ち止まることは許されない。

 会場にいる数十人の客が、期待を込めた眼差しであゆらを見つめていたからだ。

 周囲のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、あゆらはゆっくりと処刑台へ足を進めた。

 いつの間にか母の杏奈もついて来ており、辿り着いたそこには、清志郎の父や母も立っていた。

 あゆらは幸蔵の横に立つ清志郎の側で足を止めると、俯きながら客がいる方を振り返った。

 そして、明らかに動揺を示すあゆらに、清志郎がさらに追い討ちをかける。


「今日は僕たちのクラスメイトも一人招いているんです」


 頭上から降って来た言葉に、あゆらは思わず顔を上げた。

 そして、その視線の先に見たものに、血の気が引く。

 会場の出入り口、開け放された観音開きの扉の中央には、今日デートをするはずだった、その人が立っていた。



 ————志鬼…………!!



 ただでさえ長身で目立つ彼は、普段と変わらないカジュアルな服装と金色の髪で周囲から好奇の目に晒された。

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