第132話

 あゆらと電話を切った後、志鬼は身体を戦慄わななかせると目の前のローテーブルに繰り返し拳を打ちつけた。それはもう、大きな身体をした駄々っ子のように。


「ああああああ! あのクソ親父いいいぃ!! せっかく楽しみにしてたのにいいいぃ!!」


 安アパートが振動してしまうほどの力だったが、志鬼が怖いため周りの住人から苦情が来ることはない。

 一頻り暴れ終えると、志鬼は盛大にため息をつき、手にしていたスマートフォンにあゆらの写真を映し出した。


「あーあ、どうやったら誰にも邪魔されずにあゆらとずっと一緒におれるんやろな。このところ、俺はない頭をフル稼働させすぎてパンクしそうや……」


 志鬼が画面の中にいる愛しのあゆらに話しかけていると、アキがあぐらの上に乗って来た。どうやら先ほどの志鬼の雄叫びと振動で起きてしまったようである。


「おお、悪いなアキ」


 志鬼はそう言ってスマートフォンを置くと、代わりにアキを両手で抱っこし、睨めっこした。


「ええなあ、猫は、地位とか家柄とか関係なくて。組長の息子に生まれた俺が悪いんか、そんなもんであきらめられるかいな。俺が一番あゆらのこと好きやっちゅうねん。アキやってそう思うやろ?」

「ナウ〜イ(はいはい、そうだにゃ)」

「でもなあ、あゆらが俺のことどう思ってるかまだハッキリわからんしな」

「ナウナウ〜イ(お前まだそんにゃこと言ってるのか)」


 一人暮らしなので猫と話すのが板についてきた志鬼である。

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