第126話

 ようやく服装が決まると、あゆらは白いドレッサーの前に座り、寝不足でクマができていないか、肌荒れはしていないかなど入念にチェックをした。

 そしてその後、毎朝の習慣であるスマートフォンのチェックをする。

 が、それは友人からの連絡を見るためでも、インターネットをするためでもない。

 あゆらが立ち上げたのは写真のアプリだった。


 一面に映し出される志鬼の写真。

 そもそもは潜入捜査が終わった後、志鬼があゆらのカジュアルな服装が可愛いから撮りたいと言い出し、それがきっかけになった。

 最初は出かけた時だけだったが、徐々に何気ない普段の姿も収めるようになり、あっという間にあゆらの写真アプリは志鬼でいっぱいになった。もちろんツーショットも含まれる。

 本当は現像して写真立てに入れ部屋に飾っておきたいくらいだが、そんなことをすれば母やメイドたちの目につき、父の耳に入ることだろう。

 世間体を気にし話を一切聞こうとしない父が、志鬼のような血筋と見た目の少年を認めるはずがなく、あゆらは志鬼と親しいことを隠して過ごしていた。

 そのためこのスマートフォンは、もはやただの連絡ツールではなく、志鬼との大切な思い出のアルバムとなっていたのだ。


 あゆらはしなやかな指先で画面を捲り、ある写真のところで手を止めた。

 志鬼が学校の机に突っ伏し、居眠りしている写真である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る