第98話

 身元を隠すため、あくまで男同士の友人という設定で監察医たちが出て来たクラブへ潜入する二人。

 

「まさかこんな服を着る日が来るとは思わなかったわ」

「ええやん、俺とオソロのイロチやで」

「オセロ……オロチ?」

「ぐは! お揃いの色違いって意味」


 あゆらのパーカーは青色の迷彩柄で、パンツは暗めのグレイだった。パーカーはゆとりのある作りのため女性特有の胸の膨らみも目立たない。いや、そもそもそこが議題にならないほどあゆらの胸は控えめだったため、本人は密かに悲しんでいたが。

 志鬼と同じようなものを身につけていると思うと、あゆらの気持ちは明るくなり、今から危険な場所に行くというのに、足取りが軽かった。

 そんな自身が、いかに世間知らずな甘い考えの持ち主だったのか、あゆらはこの後痛いほど思い知らされることになる。


 あゆらたちが住む神奈川から電車で乗り継ぎ数十分。やって来た東京の繁華街。

 時刻は午後八時を過ぎ、平日の勤務を終えた会社員やOLたちが行き交い、大きな声で騒いでいる大学生の集団などが目についた。

 しかし、あゆらたちの目的地はここではない。この人混みを通り抜けた先……ネオン輝く街の裏側に位置する、陰の部分である。

 不意に、志鬼が大通りから外れた路地裏に入ったため、あゆらも急ぎその後を追う。

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