第95話

「わ、笑わないでよ、どうせ慣れていないからって馬鹿にしてるんでしょ」

「してないって、反応可愛いなって思っただけ。理性は強い方やから触られたからって襲ったりせんし、大丈夫やで」


 一頻ひとしきり笑い終えた志鬼はそう言って、またあゆらに向き直った。


 あゆらは変わらず正座の状態から、そっと右手人差し指を持ち上げると、志鬼の綺麗に割れた六つの筋肉の一つに近づけた。

 そしてほんの少しだけ先が触れた瞬間、驚きの声を上げる。


「す、すごい……!」


 それは、あゆらの想像を絶する硬さだった。

 女性である自身には無縁で未知なる境地に、興奮したあゆらはつい何度も何度も志鬼の筋肉をつついた。


「す、すごいわ、硬い……! すごい、こんなに、硬いだなんて、少し動いているし、熱いし、大きくて、すごいわっ……」

「……あゆらに頼みがある」

「何?」

「録音するがら今のもういっがい言うでぐだざい」

「はあ? ……って志鬼、どうしたの?」

「ちょっど鼻血が」

「なぜ?」


 小刻みに震えつつ鼻を押さえながらスマートフォンを握りしめる志鬼に、あゆらは疑問符を浮かべながら首を傾げていた。

 健全な男子高生に夜のおともは必要不可欠なので、仕方がないことである。

 しかし好きな女の子のこんな台詞だけで舞い上がってしまう志鬼は、軽薄そうな外見にそぐわずなかなかの純情ボーイだった。

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