第86話

「間違いなく他殺やと。帝鏡志郎……帝の父親に自殺として処理するように頼まれたそうや」

「なら、帝くんのお父様も」

「息子が人殺ししてるのわかってて揉み消したんやろな」

「…………腐ってる……ッ」


 なんという現実。

 一体誰を信じればいいのか。あゆらは大人全員が敵に思えた。


 これで清志郎が美鈴を殺害したことは確実となった。しかし証拠がない。凶器もなければ保身に走る監察医が公の場で証言するはずもない。志鬼は念のため監視医との会話を録音していたが、清志郎が美鈴を殺したという明確な発言はなかった。万が一あったとしても、鏡志郎がそんなことは頼んでいない、とシラを切れば終わってしまう。

 極道である親の後ろ盾を利用していない志鬼はただの高校生に過ぎず、そんな彼が監視医からここまでの情報を聞き出せただけでも十分な成果だった。


「どうして、帝くんはそんなこと……まったく意味がわからないわ」

「裕福なんやから金目当てではないやろうしな。となれば他に自分なりの理由があるか、もしくは特に意味もなくただなんとなく、か」

「なんとなく、って……」

「むしゃくしゃしただけで通り魔する奴がおるくらいやで。自己中な欲求満たすために強行に及ぶ輩は山ほどおるんや、あゆらが知らんだけでな……、けど、例えどんな理由があったとしても、帝がやったことは許されることやない」


 不条理すぎる世の中で、いつも泣くのは力のない女、子供なのである。

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