第83話

「……で、志鬼、肝心の本題は?」

「もちろん、ご用意できてますよ、お嬢様」


 志鬼はそう言うと、ローテーブルの上に置いてあったA4サイズの茶封筒を手に取った。

 

「……あゆら、先に言うとくけど」

「今度は何?」

「あゆらが思ってるよりも……相当やばい事実が出てきたんや。間違いなく、傷つくと思う。それでも見るか……?」


 志鬼の声色が急変すると、先ほどまでの不埒な空気が嘘のように室内は緊張感に包まれた。

 志鬼の薄い瞼から覗く鋭い眼差しに、あゆらは息を呑むと掌を強く握り、覚悟を決めて頷いた。


「……見るわ。だって私が逃げたところで、現実は変わらないんだもの」

「……よう言うた。それでこそや」


 志鬼は満足げに微笑すると、あゆらの前のテーブルに茶封筒から出した写真を一枚置いた。

 あゆらが注意深く見た長方形の縁の中には、中年らしき男性が若い女の子の肩を抱く姿があった。


「これが美鈴ちゃんの遺体解剖を担当した監察医のおっさんや。……で、写真はこれだけやない」


 志鬼の骨張った男らしい指が次々とテーブルに写真を並べていく。

 その複数枚には、監察医と思わしき人物がやはり若い女の子と一緒に写っていた。ただし、どれも違う相手である。

 女の勘だろうか、言いようのない嫌悪を感じたあゆらは顔を顰めた。


「どう見ても、歳の差カップルっちゅう雰囲気ではないよな」

「……これって、もしかして……援助交際、とか?」

「ご名答。良家の娘から見てもわかるもんやな。でも驚くにはまだまだ早い」

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