第56話
「なんで俺みたいなんがこんな学校に来たかというと、まあ社会勉強みたいなもんで、ここの先代の理事長と俺のじいさんが縁深かったとかなんとか」
「も、もういいわ、野間口くん! そ、それよりその、髪色に、アンダーシャツは……」
「髪はこれ、地毛なんですよ、母親がロシア人で……ああ、このシャツ? 脱いだら一面刺青やけどそれでもええなら」
他にもシャツを第三ボタンまでは開けすぎだとか、ネックレスはなんだとか、問題点は多々あったが、教師はとにかく関わりたくないと思い渋々目を瞑った。
「わかりました……ええと、野間口くんの席は」
と、教師が言い終わる前に、志鬼は長い足で床を踏みしめ、一番後ろの列まで来ると、あゆらの隣の席に座る陰気な男子生徒の顔を覗き込んだ。
「なあなあ、お坊っちゃん、この席譲ってくれん? 俺背高いから前の席やと後ろの人に迷惑やからさあ」
「ひっ、は、ハビッ! ど、どうじょ!」
志鬼の気迫に恐れをなした男子生徒は激しく舌を噛むと自分の荷物を持ち、急いで志鬼に用意されていた前の席に移動した。
それを見た教師は、もう何も言うまいとことが収まるのを待った。
「いやあ、やっぱり育ちのええ人は優しいなあ」
「……ちょっと、いろいろ強引すぎない?」
「……あ〜……」
あゆらが左隣の席に腰を下ろした志鬼に小さな声で話しかける。すると志鬼はあゆらを横目でチラリと見ただけで反応に迷っていた。
あゆらはその様子に、志鬼の気遣いを感じた。
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