　——ハ……？　

　と、固まっているあゆらをよそに、爛々（らんらん）と細い目を輝かせながら右手人差し指を自身の眼前に立てている志鬼。

「……や、らせて、って、なにを……」

「だーかーらー、セック」

「きゃあああああああ！！」

　バシーン！　と、晴天の空に豪快な平手打ちの音が響いた。

「さ、さ、さ、最低よ！　こんなお下品な人だとは思わなかったわ！　私のトキメキを返して、おバカーーッ！！」

　声高らかに志鬼に怒り狂ったあゆらは、顔を真っ赤にしながら急ぎ屋上を出て行った。

　あゆらが開け放ったドアを茫然と眺めながら、志鬼は叩かれた頬に手をやった。

「……おちゃめな不良ジョークやのに、普通、俺が誰か知っててビンタするか？」

　そう呟くと、志鬼は次第に笑いが込み上げてきた。

「死ぬほど気の強い女やな……ええわ、身にならん放浪の旅か思たけど、何か見つかるかもしれんな」

　この戦いは、未だ親友の死から抜け出せない志鬼が自分自身に決着をつけるためのものでもあった。

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