第37話

「お、お、覚えて、たの……!?」

「忘れるわけないやろ、そんな目立つ制服の上に綺麗な顔ついてるんやから、暗がりでもようわかったわ」

「き……!?」


 おかしい。容姿を褒められることなど朝飯前のはずなのに、この男の前ではあゆらはひどく取り乱してしまう。


「い、言っておくけれど、私は褒められ慣れてるんだから、そんなことで喜ばないんだからね」

「そうなん? でもめっちゃ顔赤いで」

「そこは気づかないふりをしなさいよ、デリカシーのない人ね!」

「そうや、俺の辞書にデリカシーという文字はない」


 すっかり志鬼のペースに乗せられているあゆらだったが、例の記憶を共有していると知った今、隠しきれない嬉しい色が滲んでいた。


「……なら、どうしてさっき、知らないフリをしたの?」

「そら、俺みたいなんと親しい間柄や思われたらお嬢様が困るやろうからな」

「……私が、どうして?」


 奇抜な見た目と異常なまでの身体能力、真っ向から死人を確認する冷静さ……それらを考えれば、確かに志鬼が常人ではないことは理解できた。

 あゆらが今まで関わってきた人間たちとは、まるで種類が違うことも。

 

「あなたは、何者なの?」


 それでも知りたいという気持ちは止められない。

 志鬼もまた、あえて黙っている必要もないだろうと口を開いた。


「まあ、聞きたいなら、隠すこともないしな」


 志鬼はあゆらに背中を向けると、徐に白いシャツのボタンを外し、脱ぎ始めた。

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