第24話

 振り返ると、背後に立っていたのはスーツ姿に薄毛で恰幅かっぷくのいい中年男性だった。

 

「校長先生……」

「岸本さん」

「は、はい!」


 話の一端を聞いていたらしい、学校長は、にこりと笑い信じ難いことを口にした。


「忘れましょう」

「……え?」

「きみは何も見ていないし、今日何も話さなかった。それがみんなのためになる」


 ——どういうことなのか?

 あゆらは意味がわからず、ただ見開いた瞳に校長を映していた。


「こんな嘘をついたことが校内中の噂になれば、困るのは岸本さんでしょう? 偉大なお父上にもご迷惑をかけることになるでしょうから、ねぇ? わかりますよね、きみは賢いのだから」


 歪んだ薄笑いを浮かべる校長と、それに同調するように頷く女教師。

 ようやく事態を理解したあゆらは、張りついた唇を微かに動かし、頭を下げた。


「……わかり、まし、た……」


 感情の籠らない空気のような声を漏らし、あゆらは自失の中、職員室を後にした。

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