「……帝くんのことなんですが」

「帝くん？　ええ、彼がどうかしましたか？」

「美鈴……萩原さんに、ひどい、いじめをしているんです」

　その言葉を聞いた教師は、一瞬目を丸くしたかと思うと、困ったように笑い出した。

「あらまあ、岸本さん、何を言うかと思えば……先生驚いてしまったわ」

「ほ、本当なんです、昨日の放課後、帝くん専用の、バイオリンの練習部屋で、私、見てしまったんです」

　本気にされていないと感じたあゆらは、必死に昨日の出来事を伝えようと前のめりになった。

　しかし担任は、あゆらが必死になればなるほどあきれたように首を横に振った。

「あの優しくて真面目な帝清志郎くんが、そんなことをするわけがないでしょう」

「そ、そう思っていました、私も、だからとても驚いて」

「岸本さん」

　食い下がるあゆらに、ついに教師は汚いものでも見るかのような視線を向けた。

「証拠は？」

「しょう、こ……？」

　思いもよらないことを言われ、あゆらは口籠り、それを見た女教師はため息をついた。

「やっぱり、ないんでしょう？　岸本さん、あなたはとてもよい生徒だと思っていたわ。なのに、自分より優秀な帝くんに嫉妬してありもしない事実をでっち上げるだなんて、許されることではないわよ」

「ち、ちがっ」

　あゆらが否定を口にしようとした時、突然肩を叩かれて肝が冷えた。

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