UFO
武上 晴生
深夜の散歩で起きた出来事
UFOに連れ去られた。そうとしか説明できなかった。
月のきれいな夜、空を見上げて歩いていたら、突然、視界に円盤状の物体が現れて、こちらにパアッと光をあててきた。スポットライトさながら自分にだけ光が降りかかる。いつものしかかっていた空気の重さがいつの間にか溶けて消えたように、ふわりと全身が軽くなって、ふっと足が地面から離れる。
地上から身長の高さ以上体が持ち上がってからは意識がほとんどなく、前後の記憶も曖昧。
これまた、そうとしか説明できないが、気づけば、羽虫になっていた。
川沿いでよく見る寄ってたかって飛び回るあの小さい羽虫の、その1匹となっていた。知らない茂みの中、知らない視界を、ぷんぷんと飛び回っていた。
「どうしてくれよう」
あまりの事態の急変振りに、小さい頭は追いつかない。案外困惑はこの程度で、これ以上の域では悩めなかった。それより、どうにかして生きなきゃ、ということばかりになった。エサを欲して、生きる術を求める本能に従順になった。地に足のつかない生活に慣れることに必死になった。花の蜜を取り、葉に留まって羽を休め、人の呼吸の匂いにたかる。群れとなって、宙を舞って、いるべき場所を探し続ける。夜になると帰る場所もないので、1人月光でゆわゆわと揺れる。
夜風に煽られると、思い起こされる色々があり、しばらく感傷に浸れる。それが心地よかった。自分が何の虫であるのか分からないし、なぜ生きているのか、何をして生きていけばいいのかわからない。もともとの生活も思い出しにくくなっている気がする。
答えのない深そうなことをふわふわと悩む時間は楽しかった。今できる一番人間的な活動だと思えて心地よい。
揺蕩う身体にピリッと光が当たる。人工的な白く強い、眩しい街灯の光だった。その光は下向きに広がってのびている。スポットライトのようだった。あの日見た、UFOの光を思い出した。この日もまた、月がきれいな夜だった。この街灯の下なら、また連れ去ってくれるかもしれない。あの光が、また身体をふわっと吸い取ってくれるかもしれない。
こうして羽虫は光にたかる。
UFO 武上 晴生 @haru_takeue
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