痺れるほどの陶酔1
「アルバインに会いに王宮に通ってるって知って、本当に、取り持とうと思ったんだ。あいつのことは前から知ってる。文句つけようのないやつだ。
相談しなかったことに他意なんかないが、上手くいくとも限らないからやってみないと始まらないと思った。
大体、僕は人の気持ちがいまひとつわからない。僕が介入して上手くいく自信はなかったさ。だが、二人が離れるのを黙って見ているのもごめんだった。
そんな悪あがきみたいに引き合わせようとしたんだ。あらかじめ伝えて、君に期待させすぎるのも嫌だった」
ランドリックが、きっちりと後ろに流していた髪を掻きむしった。
前髪が落ちて額にかかると、いつもよりずっと幼く見える。
「なによ、そんなこと言って、結局私の意思なんか関係ないじゃない! 妹だなんて! 家族らしいこともしたことないのに!」
「歩み寄ろうとしたって、全然懐かなかったじゃないか!」
大声で叫び合うローゼとランドリックを、誰かが背後からそれぞれ抱え込んだ。
「ローゼ、しー、大丈夫。落ち着いて。貴方から歩み寄ったことはあった? 片方だけの責任ではないでしょう?」
ローゼの後ろから、優しいのに厳しいことを言う声は母だ。
「リック、お前、成長してないな。言葉が足りなすぎんだよ」
ランドリックと並ぶ長身を活かして彼の首根っこをがっしりと抱え込んだのは、ギムレイだった。
「ギムレイ師! ギムレイ師!」
「うんうん、久しぶりだ。嬉しいのもわかる。あとで相手もしてやる。もう俺も歳なんだから、手加減しろよ。だが、その前に」
え、とローゼが瞬きをする間に、ランドリックは殴り飛ばされた。
「きゃ……」
ローゼは噛み殺せなかった悲鳴を漏らした。
「ちょっと、ギムレイ!」
「ギ、ギムレイさん、やりすぎじゃ……」
「やりすぎってことはない。弟子を殺されかけ、義娘の思いを弄ばれたんだ。怒っていいところだ。なあ、ランドリック」
「う、そうだ。僕が悪いから、これでいい」
「殊勝だな。お前、好きになったやつはとことん好きだし、根は悪い奴じゃないんだ。ただな、誰か、信頼できる人間を側におけ、な」
これで手打ちだ、とギムレイが言ってランドリックを引き起こし、話題は強制的に打ち切られた。
「ランドリックは迎えだろ? 行ってこいよ。俺は俺が仲良くなる前に娘を攫っていこうという奴に早く会いたい」
「ちょ、ギムレイ師、押さないで」
「とっとと行けよ。ほら、ローゼも」
なぜかローゼまで、廊下に出される。
母とギムレイは残るようだから、では客室の一つは、この二人のために用意したのだろう。
「今、ローゼって」
「あっと、そうだ、わり」
「ローゼでいいです。お母さんともう仲直りしたんでしょう? そしたら、いいです。でも、私まで迎えにってどなたを?」
それより、許されるならアルバインのところに行きたい。
あの日医務室で、わずかな時間語り合ってからは、検査や見舞いが立て続いて、ゆっくり言葉を交わす時間がない。
けれど、会話がなくても、そばにいられるということが、ローゼは嬉しい。時に人目を忍んで視線を交わしたり、それだけで心には春が来る。
今日も会える時間は短いはずだから、できれば、一分でも長くそばにいたい。
そわそわするローゼを見て、ギムレイは肩をすくめた。
「ほんっと、侯爵サマはリックと同じで言葉が足りないなあ。迎えにいくのはアルバインだ。療養の間、侯爵家に逗留させるって聞いたぜ。ほら、寮に移動しちまう前に、早く連れてくるといい」
「え? え? え?」
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