同志のような1

 年頃の義娘への対応としていろいろ間違っていると思ったが、母の薬草師業を手伝っていて、診療所や警備隊などに薬を届けることも、使うこともある。今更ただの裸に動揺することもない。

 細身だけど必要なところには筋肉がついているのね、とちらり観察だけして、あとは針を運んでいた。その時の会話だ。


「俺は君のお母さん一筋で来たからね」


「既婚者だったのに? おかしくないですか? あ、いえ、親の恋愛は聞きたくありません」

  

「お父さんのことも知りたくないのは、それで?」


「……父は、もういませんから」


 本当は、騎士に嫌悪感を持った最初のきっかけは、父だった。

 騎士は弱いものや女性を守るという。どんな子供向けの物語でもそう語られている。なのに、なぜ父は母やローゼを守らず、他人を守って、そして帰ってきてくれなかったのか。そう思ってから、騎士に不信感をもつようになった。

 今、不信感には呆れと不快と苛立ちと腹立ちが混じり、嫌悪感として立派に育っている。


 ローゼは手早く袖を繕い終わるとシャツを手渡したが、今度はギムレイの足元を見て悲鳴を上げた。


「髪の毛はよく拭いてください! 床がびちゃびちゃ! あ、まさか水場から……あああああ」


 雑巾を持ってきて床の水気をとっては水場で絞る。髪を振り乱して働くローザに、ギムレイは手伝いを申し出てきたが、以前箒を折られたことがあったので信用できない。断って、結局は部屋の床全体を拭き上げた。

 もうへとへとだし、胃まで痛くなってきた。

 なのに、シャツを着たギムレイはまだそこにいて、呑気に声をかけてくる。


「ローゼ嬢の真面目なところ、似てるなあ」

「誰にです?」

「俺の弟子、今は騎士団で頑張ってる」


 なんだ騎士か、と興味をなくしたのが丸わかりのローザに、ギムレイは、ははと笑った。

 初めて会ってから、ローザはギムレイの笑顔しか見ていない気がする。一緒に暮らしていてそうだということは、いつも笑っているということだ。

 そんな人いるだろうか。胡散臭い。


「体格がよくて、性格も真っ直ぐで、努力ができる。見つけた時は、この子を育ててみたいな、と思ったんだよ。でも従者にしてみた結果、なんか俺の方が育ててもらった感じがしたな」


「従者って十歳くらいでなるんでしょう? それでいいんですか?」


「いやあ、よくないよ。でも俺よりずっとしっかりしてたから。あんまりきっちり面倒見てくれるんで、息苦しくなって、十六でさっさと独立を認めたんだけど、いなくなると途端に生活が荒れて、有り難みが身に染みたよ」


 ローザは、顔も名も知らないその従者の少年に、激しい共感を感じた。


「一緒に暮らしてる間、いつも家は綺麗だし、毎日清潔な服を用意してくれるし。なにより騎士の資本だから体を大事にしないと、って体にいい料理を作ってくれるんだけど、実際鍛錬してみると体が軽いことに驚いたんだよ。俺、肌まで綺麗だったな、あの時期は」


 どうやら共感など烏滸がましかったようと、ローザは反省した。ローザの少し詰めの甘い家事よりよほど徹底していた。

 しかもこの打っても打っても響かないギムレイに、そんな整った生活が良いものだ、という認識を植え付けているのだ。尊敬に値する。


「アルバインっていうんだ」


「アルバイン……」


「昔そいつを弟子にした時には、ランドリックが拗ねたなあ」


「まさか、ゼンゲン侯爵家のランドリック、ですか?」

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