筋肉の精、半分の寿命を奪う!

下等練入

第1話

 たまたま好きになったのが、短距離のエースだった。

 たまたま聞いた彼女の好みのタイプが筋肉のついてる人で、たまたま私には筋肉がついてなかった。


「きっと全部たまたま」


 誰に言うわけでもなく私はそう呟いた。


「筋肉ってどうやったら増えるんだろう」


 もしかしたら今からでも彼女が好きになるくらいの筋肉がつけられるかもしれない。

 ベッドにゴロンと横になったまま、スマホを立ち上げる。


 ただどれも書いてあるのは、運動をしろ、タンパク質取れ、動け、プロテイン飲めと判で押したようなものばっかり。

 いくつかそういうページを眺めていると、あるバナー広告が目に入った。


『あなたの寿命の半分と引き換えに筋肉を増やします!』


「は? なにこれ?」


 どうせ質の悪いジョークサイトかなにかでしょ?


「ただ本当にできるっていうならやってみなさいよ」


 やけくそ気味にそう叫ぶと。

 スマホが一気に光り出した。




「なるほど、だから私が現れたってわけね」


 事の経緯を聴き終わるとその人かわからないなにかは、大きく頷いた。

 スマホが光で包まれたあと、この人と形容しがたいなにかが出てきたと言って誰が信じるだろう。

 強いて言えばそれはアラジンと魔法のランプに出てくる、ジンの女性版という感じだ。

 ただし、あのバナーに書いてあったことが本物ならジンと言うより悪魔だろう。


「そういうことです……」

「わかった、なら筋肉を与えればいいんだね」

「え、そんな簡単に?」

「ちゃんと読まなかったのかい? 『あなたの寿命の半分と引き換えに筋肉を増やします!』って書いてあっただろ?」

「それは書いてありましたけど……」


 だからって適当なサイトに飛ばされて、こんなことになるなんて思ってなかったのに。


「なら、筋肉をつけるけど、いいね?」


 まるで最終確認とでもいうようにじっと私の目を見つめながら訊ねてきた。

 ただ本当にいいんだろうか……。

 突然筋肉がついただけで彼女に振り向いてもらえる?

 筋肉がついたあと維持できる?


 瞬時に色んな考えが私の頭の中を巡る。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ごめんなさい……、やっぱり私独りで頑張ります」

「そう……、残念だよ」


 そう言い残すとジンのような何かは消えてしまった。

 ただ突然筋肉が付いても気持ち悪く思われそうだし……。


「まずはランニングとかから始めてみようかな!」

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