第10話 試験結果
1次試験が終わって10分後、再び教室に集められたアイドルプロデューサー候補生たちの前に壮年の試験官が現れた。
「先ほど行われた1次試験の通過者の名前を廊下に貼りだしました。採点の結果、
壮年の試験官の説明を受け、廊下に結果を見に行く。
緊張しながら俺、『杉浦誠(すぎうらまこと)』の名前を探した。
「――よしっ! あった!」
思わずガッツポーズをしてしまい、俺はすぐに咳払いで誤魔化した。
ここは涼しい顔をしてないと格好がつかないよな。
そんな風に見栄を張っていたら、隣で長い黒髪の女の子が結果を見て泣き崩れた。
「やった、やったよぉぉ! 1次試験、通れたぁぁ!」
その様子を見て、俺は思わず自分のハンカチを手渡す。
「ま、まだ、試験はありますから。落ち着いてください」
「ご、ごめんなさぃ! わ、私2年も浪人しててぇ! 1次試験を通過できたの初めてなんですぅぅ~!」
まさかの年上だった。
でも、2年も浪人してまでアイドルプロデューサーになりたかったならその気持ちもひとしおだろう。
彼女はようやく落ち着くと、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「す、すみませんでした、取り乱してしまって……。貴方の言う通り、まだ試験はありますからね! お互い頑張りましょう!」
彼女はそう言うと、やる気満々で次の試験会場の教室へと向かった。
アイドルプロデューサーも色々と個性的な人がいるんだなと思いつつ、俺は一つ気が付いた。
「俺のハンカチ、返してください~」
「あぁ! ごめんなさいっ! つい、自然に自分のポケットに入れちゃいましたぁ!」
そんな少し抜けている彼女と2次試験の待機場所へ向かった。
◇◇◇
「諸君、1次試験の通過マジおめでとう。今から10分間の休憩を挟む。好きにくつろぎやがれ」
2次試験の教室で、グラサンをかけた怖そうな男性試験官がそんな説明をする。
ここからは先は試験官も個性的なのだろうか。
「あっ、そうそう。1次試験の順位を書いた紙も配るから受け取りやがれ」
そう言って、名前を呼んで一人一人に紙を手渡していく。
俺は受け取った紙を見てみた。
『
29位/30位
ギリギリだった……。
やっぱり準備が甘かったのは否めない。
上手く誤魔化したつもりだったが見抜かれてしまっていた。
とはいえ、合格は合格だ。
それに、俺より下もいるみたいだし。
そんな風に思っていると、さっきの泣き崩れていた女性が絶望に染まった表情で紙を見て固まっていた。
つい見えてしまった紙には『
(雪華さん……最下位だったんですね……)
「よし、全員に配ったな。休憩時間はあと7分だ。この教室で自由にしてろ」
そう言うと、試験官は出て行った。
その厳つい相貌のせいで何となく緊張していた教室の空気が弛緩する。
すると、俺が座っている席に背の低い金髪の美少年がツカツカと歩いて来た。
そして、俺に握手を求めるかのように手を差し出す。
「さっき、アイドルに手を貸していたのを見たよ! しかも合格したんだね、凄い! 僕も本当は手を貸したかったんだけど、自分を優先しちゃったんだ……。限られた少ない時間をアイドルの為に使った君は本当に凄いよ!」
金髪の少年は鼻息を荒くして、そんなことを言ってきた。
突然のことに俺は面食らってしまう。
すると、金髪の少年はすぐに謝った。
「あぁ、突然ごめん。僕の名前は
意味が分かり、俺も手を出して握手をする。
月読の手はやけに華奢で柔らかかった。
「あはは、困っているアイドルはやっぱり放っておけなくてつい……」
「あのアイドルにとってはヒーローだね。大丈夫、きっと受かってるよ! 本当にカッコ良かった!」
こんなにキラキラとした目で尊敬してもらえるのは悪い気分じゃない。
心の中で少し得意げになっていると、すぐ後ろの席から大きなため息が聞こえた。
「な~に馬鹿なこと言ってんだ、あのアイドルは全然ダメだ。手なんか貸す方が残酷だぜ?」
頭をポマードで固めた男性が後ろの席から会話に割り込んできた。
顎ヒゲとツーブロックが綺麗に整えられている。
「台本も読めねぇ、字も書けねぇ、あんなのアイドルにしても金になんねぇよ」
彼女の悪口を言われて頭にきてしまい、俺はつい子供の様に反論してしまう。
「お前なんかに何が分かるんだよ!」
「少なくとも、お前よりかは分かると思うぜ」
そう言うと、その男はさっきの順位が書かれた紙を得意げに見せてきた。
『
3位/30位
その順位に驚愕する。
「さ、3位……!?」
「アイドルっていうのは商売だ。俺はさっきの1次試験でいかに利益を出せるかをプレゼンしたぜ? アイドルの5人中3人の
「彼女が……『不良品』だと……?」
思わず手が出そうになったところで、月読が慌てて仲裁に入ってくれた。
「人にはそれぞれ、色んなアイドルプロデューサーの目指す姿がある。嵐山はお金儲けの為にアイドルプロデュースをしたいだけさ……とはいえ言い方には気を付けなよ」
月読が嵐山を睨みつけつつ冷静にその場を鎮めると、嵐山は面白くなさそうに舌打ちした。
「勝手に仲良しごっこでもやってろ、テメーらがプロデュースするアイドルなんざ怖くもねぇな。俺の足元にも及ばねぇよ」
そう言うと、嵐山は席を立ちあがって教室を出て行った。
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