ないものねだり

きつねのなにか

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あーヨイサヨイサ!

筋肉音頭だヨイサヨイサ!

上腕二頭筋、ピクピク!

腹斜筋、シックスパックシックスパック!


――ああ、今年もこの季節が来たか。

僕が住んでいる都市は筋肉を崇拝する人が多く、毎年夏になると筋肉を崇拝する音頭が盆でもないのに各地で踊られている。

僕は筋肉が少なく成長しにくい疾患を持っているのでこの都市では暮らしづらい。でもこの都市に住んでいる。なぜなら筋肉医学の教授をしているからだ。

なぜ筋肉医学の教授をしているかというと、自分の体を治そうとしているためだ。

これまでに多数の発見や発明をしてきた。しかしそれでも僕の体はそれらを拒絶し受け付けなかった。

治そうとしているのは実は半分諦めているが、教授の立場となり共同研究で良いお金が入ってきている以上やめることは出来ない。生活がかかっている。

それにこれまで筋萎縮症の治療に成功したり、筋肉硬化症の治療にも成功したりしている。僕には効かないが発明自体はかなり凄い。ノーベル賞もIPS細胞の人並みに、若いうちに貰うだろう。


「あなた、今回の発表も凄いんでしょう?」

学会のある今日、妻の利香子がそう訪ねてくる。

利香子は健康的で筋肉の付きがとても良い、スタイル抜群で聡明な女性だ。

子供も三人産んでくれたし、本当に申し分ない。

「そうだな。僕には効かなかったけど筋肉の発達には凄く効果のある発見だよ。詳細は……」

「まーたお父さんの長話が始まったわ。私今日の授業で筋トレがあるから筋肉サプリメント飲ませてもらえる? 彼氏の剛君の分も含めて」

「僕はマラソンがあるから持久力が増えるお薬が良い!」

「おいらはー?」

「篤志はまだ小学五年生だから駄目よ。自分で鍛えなさい」

僕たちの子供は上から順に高校二年生の長女、中学二年生の長男、小学五年生の次男、だ。みんな聡明で自分のなりたい職業に就けるだろう。

「ねえあなた、このマンションも子どもが大きくなったから手狭よね。もっと大きい所に住めないかしら?」

「うーん、今日の発表で共同研究が増えたら引っ越そうか」


学会での発表の反響は凄い物があり、僕たちは億ションに移り住むことが出来た。莫大なお金も継続的に入ってくるし、暮らすだけならもう困らないだろう。

町の人も僕を見かけたらニコニコ笑って会釈してくれるし、高級スーパーに行っても物は買い放題だ。高級レストランでタンパク質を補充することも忘れない。


順風満帆に見えるかもしれないがこの都市では暮らしにくい。ああ、暮らしにくい。



あーヨイサヨイサ!

筋肉音頭だヨイサヨイサ!

大殿筋、ムキムキ!

三頭筋、ピッカピカー!

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