the Will With Wing
それまでの「有隣堂しか知らない世界」は、週に二度の動画配信・一度の生放送を基本に運営されていたが、新たに週四の動画・週二の生配信、というスタイルが提案された。
提案者は、チャンネルの理解者としてこれまで活動を見守ってきた有隣堂社長だった。
もちろん無理なら断ってもいい、と社長は言った。
社長はPに全幅の信頼をおいている。それは社外の雇われプロデューサーへの扱いとしては、異例とも言えるほどのものだ。この提案も今の勢いを重く見てのものだと、誰もが理解していた。
Pは一言、やります、と応えた。
配信頻度向上の発表は、ゆーりんちーに熱狂をもたらした。なにせ、週六日の更新だ。ほとんど毎日と言っていい供給の宣言に、SNSでは歓喜の声が躍った。
「いよいよブッコローもトップユーチューバーの仲間入りかー」
頭の後ろで両羽を組んで、ブッコローは椅子の背もたれに体を預けた。その隣では、有隣堂広報担当・渡邉郁がパソコンを開き、コメント欄を巡回していた。
「わっ。反応すごいですよ」
「期待されちゃってる系ー?」
「ええ。皆さん楽しみにしてくれてます」
「じゃあ期待に応えないとねー」
寝そべるように体を揺らし、いかにも気楽そうに言うブッコローだったが、内心、新体制に闘志を燃やしているのだと、渡邉には判った。
「……無理はしないでくださいね?」
真剣なトーンの渡邉に、ブッコローはわざとらしく笑って応えた。
「えぇ、なになにー? 郁さん心配してくれるのぉ?」
「そりゃだって、ねえ……」
「やだなあもう。あんまりオジサン扱いしないでくださいよ。僕まだ八歳よ?」
パタパタと羽を振るって身を起こし、勢いそのまま、ブッコローは小さく飛んだ。
放物線よりすこしだけゆるく、長い弧を描きながら。
「それに、焚きつけたのはこっちだしねぇ」
呟きは羽ばたく音にかき消されて、渡邉までは届かなかった。
ブッコローは振り返らず、そのまま休憩室を後にした。
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