筋肉仮面
大道寺司
第1話
ある日、僕の日常は唐突に崩れ去った。
「お前、太らないか?」
謎の台詞と共に目の前に現れた怪人に怯え、足がすくんでしまう。
「ふ、太るってなんだよ」
「食え」
「ンゴ」
僕は怪人が取り出したケーキを無理やり口にねじ込まれる。
そして俺の体はみるみるうちに太っていき、肉団子のようになった。
「新しい体はどうだ?」
「腹が減る。もっと食べたい」
もの凄い勢いで食欲が湧いてくる。
同時に意識が朦朧としてくる。思考が書き換えられるみたいだ。
「ならば欲望の限り食い尽くせ。我らの野望の成就のために」
「ラ、ラジャー......」
「待ちな」
今度はムキムキの覆面レスラーみたいなやつが出てきた。
覆面のせいで銀行強盗にしか見えない。
「貴様は筋肉仮面!」
「秘密結社デブール、あんたらの野望はこの俺が打ち砕く!」
筋肉仮面とやらはそういうと、変身と書かれたプロテインシェイカーを取り出し、一気に中身を飲み干す。
「変身!」
掛け声とともに筋肉仮面の筋肉がどんどん膨張し、ムキムキマッチョマンになった。
「忌まわしいやつめ」
怪人が筋肉仮面に向かって行く。
「《マッスルビーム》!」
「ぐぁぁぁ!」
「え?」
目を疑った。
いかにも肉弾戦やりますみたいなやつが微動だにせず目からビームを出した。
正面から向かって行ってやられる怪人もどうかと思うが。
「とどめだ」
あ、日曜の朝によく見る戦って隙ができたタイミングで必殺技出すやつだ。
筋肉仮面はまたもプロテインシェイカーを取り出す。ラベルには必殺の文字が書かれていた。あのカバン全部プロテインシェイカー入ってんのか。
「《マッスルフィニッシュ》!!!」
プロテイン(?)を飲み干すと筋肉仮面の背後に金剛力士像みたいなやつが現れ、怪人をぶん殴る。お前は殴らんのかい。
「く、私を倒したところでデブールの野望は終わらない......ぐわぁぁぁ!!!」
怪人は最後にそう言い残し、爆散した。
「さて、次は君だ」
あ、僕、今は怪人寄りの見た目だから倒されちゃう感じか。人生最後の出来事これかぁ......
「飲め」
「ンゴ」
やり口怪人と同じなんかーい。
僕は筋肉仮面に謎の液体を口に流し込まれる。飲み終わって容器(案の定、プロテインシェイカー)を見ると、ラベルには回帰と書かれている。もっとマシなワードは無かったのか。
しかし、僕の体はすぐに元に戻った。
「よし、ではさらばだ」
「あ、待ってください」
筋肉仮面が帰ろうとするので呼び止める。流石にあの件を訊かずにはいられない。
「なんで肉弾戦やらないんですか?」
筋肉仮面は不思議そうな顔で答えた。
「何を言っている。こんなに筋肉があったら機敏に動けないだろ」
「あ、そうですか」
筋肉仮面は去って行った。
その後、なんやかんや筋肉仮面のサポートをすることになるのはまた別の話。
筋肉仮面 大道寺司 @kzr_
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