いくら追放が流行っているからといって

ViVi

三連追放宣告

「魔法使い! おまえをパーティーから追放する!」


「神官! おまえもパーティーから追放する!!」


「盗賊! もちろんおまえもパーティーから追放する!!!」


 怒涛のごとき三連追放宣告トリプルバニッシュメント、言い放ったのはパーティーのリーダー、戦士だ。


「いきなりすぎる!」「横暴だ!」「いったい、なぜ!?」


 追放を告げられた者たちは、口々に異論反論……いや、それ以前の不服と疑問を噴出させた。

 じつにもっともな話だ。追放を言いわたされて、“はいわかりました”とはなりづらい。


「……ちょっと整理しましょう!」


 パーティー内で、もといかつてパーティーだったこの集団のなかで、最も理知的である魔法使いが、そう切り出した。

 かれもまた憤懣を覚えてはいるが、それ以上に疑問のほうが勝った。それほどの異常事態だった。


「第一に、私たちは、パーティーのために充分に努力していたと思います。それを頭ごなしに追放と言われても、うなずけるものではありません」


 そのとおりだった。とくに神官など、直接的に仲間の命を救ったことが何度もある。魔法使いと盗賊も、けっして無能ではなかった。


「第二に、いくら追放が流行っているからといって、三人いっぺんはメチャクチャでしょう。というか、私たち三人を追放したら、二人しか残りませんよ」


 ……なによりこの点こそが、魔法使いが気になっている点だった。

 五人パーティーから過半数さんにんも除名したら、半分未満ふたりしか残らない。戦士と武闘家だ。


「そのふたつの疑問には、ひとつの答えで応じよう――」


 戦士が言った。


「これからは、筋肉の時代だからだ!」


 なんたることか、すべてをフィジカルで解決する方針に転換したと言うのだ!


「魔法など使わずとも、殴って敵を倒せばよい! 屈強な肉体があれば、回復を受ける必要もない! 罠のたぐいは、すべて力で踏みつぶして進む! これがパーティーの新方針だ!」

「…………!?」


 馬鹿げた発想ではあるが、しかしその実、戦士はこれまでそれを実践していた。

 ゆえに、(この野蛮人をリーダーに戴く集団における)理知の牙城、魔法使いといえども、とっさには反論をつむげなかった。


「いや待ってくれ、筋肉ってことなら、オレだって負けちゃいないぜ……! 方向性は違うけどよ!」


 代わりに話を引き継いだのは、盗賊だった。

 たしかにかれの俊敏さは、まごうごとなく筋肉によって実現されるモノだ。筋肉とは、なにも膂力や頑強さのみを示すものではない――言われてみれば、戦士も納得できる理屈だったし、残留組の武闘家も同意を示した(かれは寡黙なので、言葉ではなく首肯で示した)。武闘家もまた、俊敏さを重んじる職能のひとつだ。


 ――――!


 風向きが変わったのを、魔法使いと神官は感じとった。


 これまでは、なんだかんだといって三対二だった。追放された方の数が多いゆえ、強気にでることができていたのだ。

 しかし、ここで人数が逆転した。いわば数的不利、オーガの群れに遭遇したときのようだった。だから、


「「――そういうことなら、私はその筋肉を強める魔法をかけられますよ!」」


 魔法使いと神官が、同時に言った。


 両者とも気づいていた。

 筋肉にかこつけた付与術エンチャントを提案する余地はあると。

 そしてそれは、魔法使いと神官の両方が可能な術であると。


 相手より先に言い出さなければ、後から言った側は軽んじられるだろう。

 すでに追放を言いわたされているのだから、軽視されればそのまま切り捨てられるのは自明だった。


「ふむ。一理ある」


 戦士はひとまず、付与術の有効性を認めた。


「だが、それはふたりも要らんな」


 そして、両名が懸念したとおりに話を運んだ。


「では決めてもらう。おまえたちふたり、より優れた筋力をもつ方を採用しよう!」

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