進化の果てに
広川朔二
進化の果てに
筋肉の美しさを競う大会がその昔存在したらしい。
我々人類が肉体の呪縛を離れてから随分と時が流れた。私自身細胞の限界を何度も迎え再生を繰り返している。
私の遺伝情報を受け継いだ個体も随分と多くなったらしい。
我々が子を生み出すには進化法に定められているため、少なくとも二個体以上の遺伝情報を混ぜ合わせて、その情報を均等に受け継いだ個体を作る必要がある。科学技術の進歩で永遠に近い命を得た我々新人類。進化的研究のため、子を成すことは義務付けられているので遺伝情報を提供し、誰かの遺伝情報との間に作られた子。そこから数代の子が生まれたが人類の進化は止まったままだ。
自ら望まない限り死が訪れないこの世界。新人類は地球を飛び出しその存在範囲を拡大した。
ネットワークに接続し筋肉の美しさを競う大会を見てみた。当時の二次元情報をもとに三次元情報が生成される。情報世界に仮初の感覚を作り出す。
裸の旧人類がその肉体を大勢の人の前で披露しては、なにやらポーズをしている。匂いや質感は自動で生成されたものだが音声は当時のものが使われている。
観客から裸の選手に対しては翻訳ミスを疑うような掛け声がかけられている。よくよく聞いてみると動物や地名、食べ物に筋肉を例えているらしい。動物は既に存在しないので別ウィンドウで解説が自動で差し込まれる。食べ物も疑似的な味覚に反映される。地名も動物と同様で解説が差し込まれる。
その全てが現在は失われた旧文明のもの。情報だけの存在となり絶滅の危機から逃れた幸せな種もいるが、情報収集が不完全なものは遺伝情報を逆算で補完したものなので不完全な情報だ。まあそれは仕方がない。人類は結局過去に戻る術を完成させるには至らなかったのだから。
生成された三次元情報の旧人類は楽しそうにしている。
我々新人類が切り捨てた感情。我々の進化は本当にこれで完成なのだろうか。
進化の果てに 広川朔二 @sakuji_h
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