第12話


前から縹さんが寝言で言っていた名前。


あれ?


「花。これあげる。内緒だぞ。」

「俺は花のそばにいるから。辛い時も幸せな時も俺がいるから。」

「大学受かったらすぐに免許取るからドライブ行こうな。約束。」


私の名前、こんなに呼んでくれた。


そしてたくさんの本当の愛をくれた。


誰だろう。

いや、わかってる。もう分かってる。


「莉玖くん。」


すぐに部屋を出て、縹さんのところへ走る。


「舛花?どうし…」


抱きしめて、さらに思い出す。


「舛花?どうした?」


約束を守ってくれた。

同時に深い深い後悔が襲う。


諦めてしまったこと。


忘れてしまっていたこと。


「忘れるのはどうしても無理だった。花を忘れたことはないよ。隠しておくつもりだった。


どうしようもなく、会いたかった。謝りたかった。」


「ごめん。ごめんなさい。莉玖くん。先に行ってしまって、莉玖くんを残してしまって、本当にごめんなさい。私も、私も会いたかった。」


ずっと名前を呼んでくれた。忘れないでくれていた。大切な人。


「自信があったのかもな。死後、絶対に会えるって。」

「どうして。」

「こんなに想ってるから。昔も今も。」


抱きしめる力が強くなる。そして温かい。涙が止まらない。自分のしてしまったことの重さ。


「花。花…」


もっと呼んで欲しい。


「花。愛してる。もう絶対に離れない。離さない。」

「うん。莉玖くん。離さないで。私ももう離さない。」


苦しい世界から逃れても、いつかまた苦しいことや悲しいことにぶつかる。それでも光があればきっと大丈夫。


私にとっての光は彼だ。莉玖くんだ。

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