短編 美しい世界線

くりーむぱすた

第1話



愛を貰って生きてきた。

物心ついた頃から私は私ではなく、僕だった。


母が僕の名前を優しく呼ぶ。そして短く切り揃えてある前髪を人差し指と中指で挟むのが癖。愛を受け取り、愛を返す。それがいつしか母の指をすり抜ける髪の毛のようにさらさらと愛が流れていった。


周りにはいつだって人がいた。好意を持って接してくれる女の子。友人として接してくれる男の子。そしていつだって違和感がそばにいる。毎日のように鏡を見て笑顔の練習をする。日に日に引き攣る口角がコンプレックスになる。


おかしい。しかし、何がおかしい?違和感の正体に気がつけないまま17年間生きた。答えに辿り着けない。感情もどこかにいった。


生きているようで死んでいる。

ならいっそ、死んでしまおうか。


なんて考えながら目を閉じる。暖かい風が吹き、再び目を開けると森の中にいた。小鳥が鳴いて湖には水を飲みにきたであろう小動物もいる。


自分は誰だ?ここはどこだろう。


瞬時に頭に浮かぶ。そして何も思い出せない。わかるのは今目の前に広がっている景色が美しいことくらい。呑気かもしれないがそれくらい美しく目を奪われる。下を向くと胸くらいまである青い髪の毛に目がいく。深海のような深い青。髪の毛があると意識した途端、切らなきゃいけないと頭に浮かぶ。


理由はわからないが本能でそう思うのなら何かしらあるのだろう。


立ち上がり歩き出す。どこへ迎えばいいかなどわからないが適当に進んでみよう。空が反射した海は冷たくも温かくもない。心地よい温度だ。履いていた靴を片手にぱしゃぱしゃと音を立てて歩く。ずっと先に島のような影が見えるが近くにあるのは木が数本生えた小さな島のようなものだけ。


楽園。天国。そんな言葉が似合う景色。


「迷子?」

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