力はすべてを解決する

オカメ颯記

力はすべてを解決する?

 その話を聞いた時、俺は耳を疑った。

「なに? おまえが、あの優良企業に転職だと!!!」


俺の目の前にいるひょろくてガリガリの友人は不機嫌そうにうなずいた。


「それも、夜道を歩いていてスカウト? 深夜にフェアリーちゃんを集めていて?」


なんだ? そんなうまい話。


「うまい話じゃない。どちらかというと、不幸な話だ」

友人は暗い調子でこぼす。


こいつ、何を言っているんだ?

俺には彼の真意がわからない。

彼のスカウトされた会社は、知る人ぞ知る超優良企業。この国の官や財と深く結びついていて、公務員以上に待遇が保証されていて、民間移譲の給料が出る、そんなところなのだ。もう、就職できた時点で将来が確約された、そんな企業なのに。


体力に自信があって、体を鍛えている俺ですら、一次面接も受からなかったのに。

なんで、こんな(俺に比べて)貧相な体の友人がスカウトされたのだ?


「……それも、美女の担当官がついて二人っきりで行動することもある……な、なんて(羨ましい)……」

俺の鍛えた二頭筋ではなく、貧相な細腕を選ぶ女がいるか? いや、友人を悪く言っているのではない。彼はいい男だ。だから、学校を卒業しても付き合いが続いている。

でも、体力はない。筋肉はない。俺のほうが上だ。


「なにか、なにか、おまえに特別な才能があったというのか?」

俺は必死で頼み込んだ。俺も、その企業に転職できるものならしたい。努力で何とかなるものなら、俺でもなんとかできる。これは筋トレを続けてきた俺の信念でもある。


「よ、妖精かな? その……」

「それなら俺も負けない。フェアリーちゃんたちのことなら俺はよく知っている」


俺は自信をもって断言した。あのゲームはもともと俺が始めたものだ。フェアリーちゃんたちの進化系も、生態も、何もかもよく知っている。

そういって引き合わせてもらった彼の上司は、女子高生だった。


「君が、上司?」

俺の頭の中でロリババアという単語がきらめいている。


「この人、誰?」見かけ女子高生は本物の女子高生のように頬を膨らませた。


「あ、彼は僕の友人で、そ、その会社に就職したいと……」


「却下」少女は最後まで話を聞かずに友人の話を遮った。


「なぜだ。どうして、彼がよくて俺が駄目なんだ?」


「だって、あなた、妖精、見えないでしょ」

少女は何もない空間をさした。「あなた、あれ、どうする気なの?」


うん? 何も見えないが。まさか、裸の王様式テストなのだろうか? 俺は友人の顔を窺った。何もない空間を見つめて、顔が青くなっている。まるで、あの空間に俺の見えない何かがいるかのように。


いや、本当に透明な何かがいるのだろうか。


「ふむん」俺は気合を入れた。目に見えなくても、こぶしは当たるはずだ。


「チェストぉ」

俺は見えない空間に拳を叩き込む。

お? ぐにゃぐにゃしたなにかと生ものの匂いがしたような。

「トイヤ」

そのまま回し蹴りだ。

「そや、そや、そや」

なんだか気持ちの悪い手ごたえがあった。

「なんじゃ、こりゃ」

ま、いいか。俺の筋肉は


「これでいいのか?」

俺は型の演武をひとしきり見せてから少女にきいた。


「全部逃げちゃった……ある意味、すごいわ。露払いにちょうどいいかも」

少女は感心したようにいった。


それからしばらくしてから、時々俺は彼女のところで副業をすることになった。

ただ、彼女や友人と一緒に町をぶらついて、電子の生き物を集めて回るそんな簡単なお仕事だ。


時々、彼女は俺の筋肉の舞を見せてという。


俺は喜んで、彼女たちが見えているというエアフェアリーにこぶしを叩き込む。

裸の王様? いいじゃないか。真実は口にしなくても。


俺はみんなが俺の筋肉を評価してくれていることに委託満足していた。




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力はすべてを解決する オカメ颯記 @okamekana001

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