【短編】スケルトン転生〜夜空を仰ぐ丘の上の骸骨〜

大河原雅一

丘の上のスケルトンの話

いつの頃からか街を一望できる丘の頂きに、一体のスケルトンが出没するようになった。


不安視した住民から幾度も排除願いが出されたが、そのスケルトンは騎士団を一蹴するほど強く、討伐することはできなかった。

討伐こそ叶わないものの、こちらから手を出さなければ襲いかかってくることもないため、夜間は丘に近づかないという暗黙の了解が出来上がり放置されることとなった。


何故そのスケルトンだけを特別扱いするのか?

そのスケルトンが丘に居着いてから周辺のモンスターが激減したのだ。


ある者は見た。

そのスケルトンが魔物と戦っているのを_


ある者は知った。

丘を中心に魔物が減っているのを_


ある者は聞いた。

魔物に怯えず生活できる安全圏があることを_


魔物なのに魔物避け扱いされるスケルトン。

誰ともなく呼び出した渾名は【丘の守護者】。


王朝が変わり歴史が塗り替えられても、スケルトンは丘の上に居る。

人の世を見守るように丘の上に佇む姿はいつしか神格視され、ますますアンタッチャブルな存在となるのであった。


__


気が付いたら丘の上にいた。


そうとしか言いようがない。

夢を見ているだけかもしれないが・・・


こうなる前は地球という星で、寝たきり生活をしていたはずだ。


生来体が弱く、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)体質で、ことあるごとに体のあちこちを骨折していた。

医者は「筋肉をつけろ」「筋肉で補え」「筋肉はすべてを解決する」と言っていたな。聞き流していたけど、骨身になってから納得した。


筋肉は大事だ!




はじめに気がついた時は森の中。

体が透けていて、人にも動物にも気がついてもらえなかった。


死んだのかと思ってた。


自然の植生や動物、人々の姿形が地球のものとは違うから、地球ではないことは確かだった。


月夜の晩だけ実体化する不思議現象に気がついたのは、森を出て丘の上で街を見下ろしていた時だ。


雲の隙間から降り注ぐ月光。

なんとなく気配を感じてみれば、自分自身の気配ではないか!

寝ている時に、自分のいびきや寝言で目覚めるような微妙な感覚!


実体化した自分の手足を見れば骨。

お腹や頭も触ると骨。皮膚や髪の毛もない。

目の部分なんかただの窪み!


鏡がないから不確定だけど、多分全体では骸骨模型そのものなんだろうと思う。

人の体でない事に対してはあまりショックはなかった。


それよりも世界を感じることに夢中だった


触れる!

自分の体も地面も草木も石ころも!

いろんな気配も感じる!


そして魔物があらわれた!


スライム(多分)だった・・・

バラバラにされて体半分溶かされた!

逃げることもできずになすがままに蹂躙された。


なんで今生きている(?)かと言えば、月が雲に隠れたから。

タイミングよく夜空が雲に覆われると、スライムは急に興味をなくして去っていった。


どうやら月光を浴びている間だけ世界に認識される体質らしい。

しばらくの間、月光を浴びないように怯えて過ごした。




この世界には【魔力】がある。

自分がそう呼んでいるだけで本当に魔力と呼ぶのかは知らない。


世界に認識されない状態でどれくらいの間、彷徨っていただろうか。

だんだん気配というか、生命力の塊みたいなものを感じられるようになった。


小さな昆虫や草木に触れると、自分が満たされる感覚がある。

もしかして魔力を吸収しているのか?


試しにスライムをぶん殴る!

拳は「スカッ」とすり抜けるし気付かれる様子もない。

だけど満たされた感覚はある。


ならばもっと触ってやろう!

ペチペチと叩いて(動作のみ)みたり、撫で撫でして(動作のみ)みたり。

もしかして手をつっこんでも溶かされないのか?


よし、スライムよ、お前の体を蹂躙してやろう!


ん?


スライムの体内にある魔力の塊。

触れるとスライムが暴れているっぽい。

ならばと、気合を入れて撫で撫で・・・


魔力を吸い尽くすと塊はポロポロと崩れていき、スライムはベチャッとしたぬかるみになった。


満たされる高揚感が凄い!


それ以降、日中はスライムや魔物や動物や人間から少しずつ魔力を頂戴する生活になった。

生態系のバランスを崩したいわけじゃないから、ほんのちょっとで良いのよ。

「通りすがりにお尻タッチ」くらいのセクハラおっさん感覚。


月光を浴びて実体化しても相手の魔力を吸収できることが分かり、怯えなくても良くなった。


実体化すると分かる。

ちょっと強くなってる。

もしかしたら骨密度が上がっているのかもしれない。

だとしたらめっちゃ嬉しいね。


健康なスケルトンは骨密度が凄い!

飛んだり跳ねたりしても骨折しないし、眼球はないけど魔力的な流れで周りを察知できるよ!


運悪く人間と遭遇して襲われた事もあるけど、最近は遠巻きに見てるだけになった。


もっと強くなれば皮膚と筋肉と髪の毛は再生するのかな・・・




今夜は雲ひとつない満天の星空だ。

丘の頂きに立ち、光の源を見上げる


早く月に帰りたい。

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