第3話 梅とツナマヨ
「レトロな内装がたまらねえなあ……今より長期間を要した恒星間航行を飽きさせないための、ちょうどいい生活感って言うのか? いいなあ、このまま持って帰って家にしてえ!」
「テーマパークに来た子どもじゃないんだから」
「人を子ども扱いするんじゃねえよ。ったく、どいつもこいつも……」
「どいつもこいつもって、ユーカはいつもそんな感じなの?」
「ただのボヤきだよ。気にすんな」
ハルが
メシヤが襲撃されてから数時間後。
グーラがこじ開けた箇所とは異なる部分から船へと侵入したあたし達は内部の探索をしている。船の重力制御装置は永き年月を経た今でも健在だし、船内の非常灯を暗視モードで増幅すれば不自由は一切ない。
荒らされた部屋や破壊された警備システムを頼りにグーラを追っていく。穴を空けられたばかりの隔壁の先には、かつて船内の人々が激しく争った末に全滅した痛々しい痕跡が残る区画があった。食糧は何ひとつ残っていないが、貴重品や雑貨の類は争いの種にならなかったらしく、グーラに持ち去られた形跡がある。
「食糧はむしろ船の外縁にあるんだ。衝突時にあっという間に死んじゃったみたいで、ほとんどが手付かずだよ」
「にしても、グーラのヤツらが向かっているのは……」
船内を右往左往しながらも痕跡は船尾へと向かっている。悪い予感はハルも同じらしい。
「エンジンルームだろうね」
この時代の船の動力は
船尾への近道に外縁の居住区を歩いていると、後方の部屋で物音を立てていたハルが声を上げた。
「ユーカ、あったよ」
居住者の収納だったと思われる小部屋の棚には、一辺が五十センチほどの立方体の形をした時間凍結器があり、そのなかに二個のおにぎりがフィルムに包まれたままの姿で浮かんでいる。
「うわあ、梅とツナマヨだ! まさか当時の人気の味ふたつを並んで見られるなんて!」
「嬉しいのは分かったから狭い部屋で九本もある尻尾を振らないでくれる?」
「悪い、完全に無意識だった」
「ユーカのせいでうちの店がなくなったんだから、これはお預けだよ。欲しいならゼブの首でも持ち帰って、賞金で弁償を済ませてから自腹で買うんだね」
「……分かってるっての」
「その尻尾、物を言い過ぎじゃない? 本来そんなツールじゃないよね? おにぎり以外にも持って帰れるものがあるんだからぶつからないよう気をつけてよ」
しょぼくれた尻尾の間を縫って、ハルは部屋を物色する。
おにぎりが入った時間凍結器以外にあるのは情報端末などであたしには専門外。そのものに価値はなさそうだが、ハルに片っ端から触れられて青白い光を残し消えていく。あたしの船へと送る短距離転送だ。
ハルの
「時間凍結器は転送できないから持っていくしかないね。他のものはあいつらを片付けたあとでどうにかしよう」
「ハル、もう一つ背負ったそれはなんだ?」
「残念だけど、これは企業秘密なんだ。さあさあ! 先を急ごうよ」
やけに上機嫌だ。余程の金になるものなんだろうが、全てを話す義務があるわけでもないし奪うつもりも毛頭ない。
気にせずに歩き続けるとやがて船尾にたどり着く。ひときわ分厚い壁に設けられたドアが出迎えた。エンジンルームだ。
先を歩いていたハルが無警戒にドアに触れようとする腕を掴んで止める。
「死ぬぞ。罠が仕掛けられてる」
「私のセンサーは反応してないよ?」
「探知できるもんを戦場で使ったら三流の
センサーで捉えた壁向こうのシルエットは四つ。
「ドアをあいつらにぶっ飛ばして突入する。荷物持ってるハルはあたしが背負うにはデカすぎる。シールド出力最大にしたまま死ぬ気でついてこい。こいつが盾になる」
九尾を振ってから言わなきゃいけない小言を思い出した。
「ハルはくれぐれも撃つんじゃねえぞ。そもそもそんなヒマありゃしねえと思うが、どこに当たるか分かったもんじゃねえ」
「……それなら、私のこと店みたいにしないでよね」
そんなの当たり前だ。いくらか
部屋の奥で動く人間が集まる瞬間に、あたしはトリガーを引いた。
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