抽斗の手紙

るなち

封筒

 少年は抽斗ひきだしの中から一通の封筒を発見した。それは彼女から送られてきた一通の手紙であった。軽く中身を確認しようとした所なにかの拍子に中身が抜き出されていたのか、それとも戻していないのかは不明だが封筒自体は空だった。

 少年は意地となって抽斗の中を漁った。テストのプリントや失くしていたペン等が見つかるがそれはどうでも良く、とにかく封筒の中身を見たかったのだ。そして奥底まで掘り返した後に別の場所に入れていたことを思い出し抽斗を閉めずに箪笥たんすの中を漁る。丁寧に折りたたまれた状態の手紙を発掘できたのは封筒を見つけてから一時間後のことだった。

 手紙の中身を読んで少年は安堵した。彼女からのラブレターとも言えるその怪文書は恐らく深夜に書かれたであろうものだからだ。少年は彼女に『手紙を見つけた』と封筒の写真を送りつけると即座に『捨てて!』とだけ返信が来た。ふむ、と少年は一言置くと、封筒を眺める。裏には小さく赤い文字で【要返信】と書かれていたので少年はさんざん散らかした抽斗を開くとレターセットを取り出し一行だけの愛の言葉を記し、封筒に入れた。

 二人の間ではこの程度のやり取りで充分なのである。それだけ満たされた関係だからだ。


 おしまい。

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