タン

無頼 チャイ

テセウスの船

 タコの身体の約九〇%は筋肉で構成されてるらしい。

 無脊椎動物の代表であるタコとイカは、そのほとんどが筋肉であり、構成された触手は掴んだりする他に、何と味覚を司っているそうだ。

 ここまで聞くと凄いと思ったり、イルカやクジラの頭に鼻の穴があるような、ちょっとした異形を感じるかもしれない。

 ではここでびっくりするようなことを、いや、正確には思い出してもらおう。

 実は人間にも、ほぼ筋肉で構成され、味覚を司る部分がある。


 舌だ。


 言われてみて当然と感じたかもしれない。しかしイルカやクジラを例に上げたように、筋肉が構成するのは生き物それぞれで違う。


 さて、ここで考えてほしいことがある。


 テセウスの船という思考実験を知ってるだろうか?


 船の各種、腐った部分や壊れた部分をちょっとずつ改修した結果全てが完全に入れ替わった場合、それは元の船と言えるかどうかという実験だ。

 船のパーツを全て変えればそれは全く別物と考えることも出来るだろう。しかし思い出が残ればそれは全く同じと考えることも出来る。

 さて、ここで本題に入りたい。


 僕らは常に筋肉によって器官や臓器を守り動かし、身体を安定させている。ゆえに、身体の構成には無駄がない。

 だが、身体というのは消耗品でもある。身体から老廃物は出るし、酷使した部位は痛めたり、場合によれば深刻な病気にも繋がる。

 もし変えが効くのなら、きっと変えることを望むことだろう。不便を喜ぶ人などそういないのだから。

 ここで一つ投げかけたい。もし君の舌が病で使えなくなって、新しい舌に変えたとき、その舌で味わったことや、その舌で発する言葉は、君の物と言えるかい? 小さい頃食べられなかった味が、大人になって味わえるようになった。それを劣化と呼ばないように、個性と呼べるだろうか?

 人間の身体は無駄がない。ゆえに、僕らは囚われてるのかもしれない。

 これは、舌禍であり、可能性。

 

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